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SDGsコラム 第4回「気候変動(地球温暖化)について・その4」

SDGsコラム

2022年7月31日

SDGsコラム 第4回「気候変動(地球温暖化)について・その4」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジの講師として、また環境ビジネス情報の記事などを執筆させていただいておりました。

今回は、前号に引き続きSDGsの重要な課題でもある「気候変動(地球温暖化)」、特に「地球温暖化と台風との関係」について書かせていただきます。

■寒い地域も暖かくなるのなら何も問題はないのではないでしょうか?

これもよくある質問です。

確かに現実には、「地球温暖化を温度上昇とだけしか理解していない」人が多いようですね。まったくの素人ならともかく、その発言が大きな影響力を持つ知識人の中にも唖然とする見解を持つ人がおられます。次のコメントを見てください。

「地球が温暖化し世界中の水位が50㎝上昇したら多くの都市が水没してしまうといわれる。確かに水没してしまう都市の人たちにとっては困ったことかもしれないが、他の土地へ移り住めばいいだけの話である。逆に、これまで寒くて住みづらかったシベリアにとって温暖化は歓迎すべき変化であり、多くの人がシベリアに移住するかもしれない」。

これは、ある著名なオピニオンリーダーの見解です。その影響力を考えると、背筋が凍り付いてしまうのは私だけでしょうか。
その影響からか、「北海道が暖かくなり住みやすくなるから温暖化は歓迎だ」と言う声もよく聞かされます。本当にそうでしょうか。

◆北海道の流氷が・・・・!

たとえば、毎冬に北海道沿岸に漂着する流氷を考えてみましょう。

この流氷はシベリアのアムール川の淡水が凍ったものです。近海の海水が凍ったものではありません。流氷の中には、アムール川上流の森林地帯からの栄養分がたっぷり含まれています。

これが強い北風に乗って北海道沿岸にたどり着くのですが、春になって流氷が溶け出したとき、中に含まれていた栄養分が沿岸海域に広がっていきます。そのためこの地域でプランクトンが繁殖し、絶好の漁場となります。

もし、温暖化で流氷が漂着しなくなったとき、それは「北海道近海の漁場が大打撃を受ける」ことを意味するのです。

一方、もし寒くなりすぎて氷の厚みが増すと、流氷が海底をこすりながら着岸することになります。このとき、昆布などの海草類が大打撃を受けてしまいます。

私たちは、絶妙な自然のバランスの中で生かされていることを忘れないようにしたいものです。

◆永久凍土が溶けてメタンが大量に放出される

北海道よりもさらに寒い地域にあるシベリアやアラスカなどで、永久凍土が溶け始めています。永久凍土とは、水分が凍って岩石のように硬くなった土のことで、アラスカ、カナダ、シベリアなど夏も地中の温度が氷点下の地域で見られます。

温暖化が進めば、永久凍土の溶けるスピードが加速され、閉じ込められていたメタンが大量に放出される可能性があります。前述のように、メタンは強力な温室効果ガスです。

つまり永久凍土地帯から大量のメタンが放出されることによって、温暖化がますます加速されてしまうのです。

米アラスカ大が2003年4月から2004年5月まで、シベリアの湖でメタンの泡を連続観測しました。

これに人工衛星の画像の解析や飛行機による観測結果を加えて放出量を試算したところ、「地球温暖化の進行でロシア・シベリア地方の湖の下に閉じ込められていたメタンが気泡になって上昇し、大気中に大量に放出されている」ことを突き止めたのです。研究者は、メタンの作用で温暖化がさらに進む「悪循環」が始まったとみているようです。

◆南極、北極で21世紀末までに10℃以上の気温上昇

地球温暖化の重要ポイントのひとつに、「気温の上昇は南極や北極で大きく、熱帯地方では小さい」というのがあります。

どの研究機関も「気温の上昇に関しては、熱帯地方など低緯度地方よりも南極や北極地方の方がかなり大きい」という点で一致しています。

数値にバラツキはあるものの、多くの研究機関が「南極や北極地方の周辺で、100年後までに冬に10℃以上気温が上がる」と予測しているのです。

実際に、1906年から2005年の100年間で地球の平均気温が0.74℃上昇しました(IPCC第四次レポート)が、その間に南極や北極周辺では2.5~3℃ほど上昇しています。

このほか、山岳地帯にある氷河が大量に溶け出し、下流にある地域が大洪水に見舞われる恐れが出てきますし、積雪の減少によって淡水の蓄えが減り、夏期に水不足の可能性も大きくなるでしょう。

これらの例のように、寒い地域の温暖化にも問題があります。

もちろん、気温の上昇によって農作物の収穫が増える地域もあるでしょう。しかし、繰り返しますが「地球温暖化でいう気温の上昇とは、あくまでも平均気温のことであって、その過程で気候の変化、日常的には異常気象が増える」ことを言います

大きな気候変化、そしてそれに伴う大きな気温の変動や降雨パターンの変化に、農作物が対応できない可能性(収穫が減少するリスク)も考えておく必要があるでしょう。

■地球のこれまでの歴史の中でも、今の変動の大きさは問題ですか?

地球が誕生して46億年。生命が誕生してからでも、自然環境は今の温暖化なんか比べものにならないくらいの変動を繰り返してきたのです。

実際、恐竜時代(中生代)の二酸化炭素濃度は今の10倍以上あって、気温も10℃ほど高かったけど、あんなに大きな生物を養えるくらいの食べ物もあったということですし。

今の動植物もちゃんと適応していくんじゃないかな・・・・そこのところはどうなのですか?という質問も多くいただきます。

◆生態系が温度の変化についていけない

確かに地球の気候は大きく変動してきました。むしろ現在は、「奇跡の1万年」と言われるほど、安定な気候が続いています。そのために農耕が発達し、たくさんの人口を養えるようになりました。

ただし、現在の80億人からさらに増え続ける人間と数千万種とされる生物種が生きていくためには、今の安定な気候がこの先も続く必要があります。

現実には、人間がどんどん増える一方で、生物種は減少を続けています。その結果、生物種の集合体としての生態系の破壊が加速しています。その大きな原因として、乱開発や環境汚染という人為的な要因があげられます。

そして地球温暖化によって気候が大きく変化しようとしています。

温度上昇が、氷河期から温暖期への移行のように何千年という時間をかけて変化するのであれば、生態系は十分対応していくことができます。

しかし、この温度上昇がわずか100年で起ころうとしているのです。生態系はこれほどの急激な変化にはついていけません

◆日本も他人ごとではない

温暖化で日本が熱帯並みの気候になり、ヤシやハイビスカスなどの熱帯性の植物が植生する。

・・・・なんてことは有り得ないのです。

熱帯性の植物には熱帯の土(腐植土・腐葉土)が必要です。ところが温度が高いと、落ち葉や動物の死骸が土にならずにほとんどが分解してしまうのです。そのために熱帯性の気候では、1センチの土ができるのに数百年もかかります

一方、急激な温暖化は、今存在している温帯の植生にも深刻な影響を与えることになります。地表で活動している微生物やバクテリアが、地表温度の急上昇に適応できない可能性があるのです。

するとミミズや昆虫がエサがなくなって飢え死にします。その結果、土が死に、森林が消え、動物が生きる場を失います。

このようなことは、2℃程度の温度上昇であっても起こると予想されています。特に森林地帯への影響が深刻で、IPCCは「温暖化による気温上昇によって、今後100年間で等温線が150~550キロメートル高緯度側に移動し、地球の全森林面積の3分の1で植生が何らかの変化を受ける。また、病害虫・火災の増加などによる森林損壊で、より大量の二酸化炭素が放出される」と予測しています。

◆生物の絶滅速度は過去の100~1000倍

恐竜の絶滅は一瞬に起こったように誤解している人が多いのですが、実は数百万年間にわたって徐々に進行したものなのです。それに比べて現在の、そして将来予測される生物種の絶滅速度は、はるかに大きくなっています。

このことについて、少し前ですが、平成19年版【環境・循環型社会白書】には次のように書かれています。

ミレニアム生態系評価によれば、人類は、そうした自然に起きる絶滅と比べて100~1000倍もの速い速度での種の絶滅をもたらしていると試算されています。

過去の生物の化石などに関する研究成果から、多くの生物が同時期に絶滅する「大絶滅」が過去5回発生したことが分かっていますが、現在の絶滅の状況はこれらをしのぐ規模で進行しており、人類が引き起こした6回目の大絶滅と言われます。


【図表:種の絶滅速度】

 

※ミレニアム生態系評価
国連の主唱により2001年から2005年にかけて行われた、地球規模の生態系に関する総合的評価。95ヵ国から1360人の専門家が参加。生態系が提供するサービスに着目して、それが人間の豊かな暮らし(human well-being)にどのように関係しているか、生物多様性の損失がどのような影響を及ぼすかを明らかにした。

次回も引き続き、「気候変動(地球温暖化)」についてさらに詳しく見て行くことにします。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二