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SDGsコラム 第3回「気候変動(地球温暖化)について・その3」

SDGsコラム

2022年6月30日

SDGsコラム 第3回「気候変動(地球温暖化)について・その3」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジの講師として、また環境ビジネス情報の記事などを執筆させていただいておりました。

今回は、前号に引き続きSDGsの重要な課題でもある「気候変動(地球温暖化)」、特に「地球温暖化と台風との関係」について書かせていただきます。

■地球温暖化と台風

◆温暖化で台風が巨大化?

地球温暖化で地球の気温が上昇すると、台風やハリケーンなど熱帯低気圧が巨大化すると予想されています。海水表面温度が高くなって、熱帯低気圧にエネルギーがどんどん補給されるからです。

そして日本沿岸など、比較的緯度が高いところで水温が高くなるので、熱帯低気圧(以下台風)の勢力が非常に強いまま沿岸地帯に上陸する可能性が強くなると考えられます。

現在の台風は、はるか南方海上では猛烈に発達していたとしても、上陸する頃にはかなり勢力が衰えています。

これは、沿岸部に近づくにつれて海水温度が低くなり、水蒸気(エネルギー)の補給が少なくなるからです。

しかし温暖化が進めば、沿岸部に来てもどんどんエネルギーが補給され続けるので、猛烈な勢力を維持したまま上陸する可能性が強くなるのです。

地球温暖化で海面が上昇するうえに、台風が巨大になり、しかも勢力が衰えないとしたら、沿岸地域は防災上で大きなリスクを負うことになります。

◆あまり語られない台風とフェーン現象の関係

台風が巨大化することで、フェーン現象による気温の上昇と乾燥化が激しくなると思われます。

台風が大型化すると、さらに湿った空気によってフェーン現象が強まる可能性が高まります。台風が巨大になれば、日本から離れていても、いや日本から離れているからこそ、(台風本体の雲が日本上空にかからないので)フェーン現象に注意を向けないといけないのです。

とりわけ北陸や東北地方の日本海側では、山越えの強風が吹き下ろす場合に気温上昇が予想されます。しかも、大気が極端に乾燥し、大火が発生するリスクが極めて大きくなります。太平洋側でも、湿った強風が山地を超える可能性のある地域は要注意です。

例えば、紀伊山地越えの阪神地域、四国山地越えの瀬戸内地域、中部山岳越えの長野県や岐阜県などは、フェーン現象を警戒する必要があります。

地球温暖化で平均気温が2℃上昇すると、取り返しのつかないことになるとされていますが、フェーン現象は0.5℃程度の上昇でも大きな温度上昇と深刻な影響を及ぼすでしょう。

◆台風が通り過ぎた後は?

台風が通り過ぎると風向きが反対になり、進路によっては北側の寒気を引き入れることがあります。すると、今度は急激な気温の低下が起こります。急激な温度変化は、人間の健康や生態系にとって悪影響を及ぼすことは言うまでもありません。

この時、フェーン現象による高温化と寒気による低温化が相殺され、平均気温に影響を与えない可能性があります。しかし現実には、大変な気温変化が起こっていることに注目してください。

前にも触れましたが、地球温暖化でよく使われている数値は、あくまでも平均気温です。わずかな平均気温の上昇であっても、日々の気温変化(気象変化)が著しくなる可能性が高いと言うことを知っておいてくださいね。

このように、フェーン現象の頻発化と台風の巨大化は、私たち日本にとって「今そこにある危機」なのです。

ワンポイント講座:ハリケーンの方が台風よりも強力?

2005年8月29日、米国ルイジアナ州ニューオーリンズ付近に超大型ハリケーン「カトリーナ」が上陸し、甚大な被害をもたらしました。この災害をきっかけに、米国では気候変動の脅威に対する認識を新たにする人が激増し、地球温暖化防止への動きが活発になってきています。

実は、カトリーナ(ハリケーン)の脅威は、そのまま我が国に当てはまるのです。しかし、それを実感している日本人は非常に少ないのが現状です。

どうしてなのかを街で尋ねてみたところ、驚いたことに「台風はハリケーンより小さいから大丈夫」という声が大多数を占めていたのです。環境問題に関心の高い人でも、同様の意見が多いようでした。でも、これは大きな誤解です。

数字だけを見ると、台湾に上陸した2007年最強の台風8号の最大風速55mm(秒速)はカトリーナの77m(同)に比べて弱く思えます。しかし、これは台風とハリケーンとでは風速の測定基準が異なるためなのです。

台風は「10分間の平均風速」でハリケーンは「1分間の平均風速」なのです。1分間平均は、だいたい10分間平均の1.3倍になるとされています。

すると台風8号は1分間平均では約72m(秒速)となり、カトリーナに勝るとも劣らない強さであったことが分かります。事実、台風8号はカトリーナと同じカテゴリー5のスーパー・タイフーンに分類されているのです。

◆カトリーナを凌ぐ伊勢湾台風

実は未来の話ではなく、すでにカトリーナと同等以上の台風がいくつか存在するのです。伊勢湾台風や第2室戸台風です。

ここで伊勢湾台風とカトリーナを比較してみましょう。

【図表:伊勢湾台風とハリケーン・カトリーナとの比較】
※最大風速の値[A/B]は、Aが10分平均、Bが1分平均です。

 

台風は10分平均×1.3、ハリケーンは1分平均÷1.3として換算しています。

この表を見ると、伊勢湾台風はハリケーン・カトリーナよりむしろ強いくらいです。

両者の著しい違いとしては、勢力を強めていた位置が挙げられます。伊勢湾台風は、北緯15~20度で発達し、弱まりながら北上しました。一方、カトリーナは北緯25度付近で発達し、最盛期に近い状態で上陸しました。これはカトリーナが水温の高いところを通ってきたことを示しています。

ニューオーリンズは北緯30度付近にあり、日本地図に当てはめると屋久島のやや南に相当します。伊勢湾台風がこの位置にあった時は、最大風速が毎秒60m(10分平均)あり、カトリーナの毎秒55m(10分に換算)を上回っています。ちなみにこの時、伊勢湾台風の暴風半径は350kmあり、カトリーナの180kmの2倍の大きさだったのです。

以上のことから、もし日本の太平洋沿岸の海水温度が北緯30度並みに、あるいはそれ以上になれば、台風が最盛期の状態で直撃する可能性が大きいと言えるのではないでしょうか。

私たち日本人は、伊勢湾台風(死者・行方不明5098名)やカトリーナ(同1856名)のような惨劇を繰り返さないように早急に防災体制をさらに強化する必要があります。

そして、地球温暖化を防止(抑制)することで、少しでも海水温度の上昇を抑えるよう努力したいものですね。

◆復旧不能な大停電が起こる?

今後、伊勢湾台風を上回るような暴風雨に襲われた場合、建造物の多くが倒壊するでしょう。その中には公共施設も含まれます。

例えば60mを超えるような暴風が吹くと、送電線を支えている鉄塔が倒壊する可能性が高くなります

さて、ここで質問です。

広範囲で倒壊した送電鉄塔を誰がどのようにして復旧させるのでしょうか?

山間部で鉄塔を修復しようとしても、倒壊数が多く、しかも山崩れや洪水などで道路が寸断されているのです。二次災害の恐れも高く復旧は困難を極めるでしょう。そうなると、遠方の発電所からの送電に頼っている都市部で復旧不能な大停電に見舞われる可能性があります。

◆電気(エネルギー)の地産地消へ

温暖化を防止するには、発電時に二酸化炭素を発生させない原子力発電所が有力とされています。ライフサイクル全般で考えて、原子力発電が最も環境負荷が小さいかどうかは議論が分かれるところです。また危険か安全かという論争も続いています。

しかし、そのような議論や論争は、送電が続くという前提があってこそ成り立ちます。もちろん議論や論争自体は悪くないのですが、それと同時に大停電に対するリスク対策を徹底しておく必要があります。

1つは大停電しても大混乱が起こらないような対策であり、もう1つは大停電が起こらないような対策です。

前者の場合は、電気を使わなくてもすむような街づくりですが、今すぐ取りかかったとしても完了まで長期間を要するでしょう。

後者の場合は、遠くの電気に頼らない対策、つまり「電気の地産地消」が考えられます。食料の地産地消と同様に、太陽熱や太陽光発電、風力発電、波力発電、地熱発電など地域の特性に応じた電気の供給源を身近な場所に設けることです。

もちろんこの場合も、60m以上の暴風に耐えることが必要ですが、立地が近いので倒壊した場合でも比較的復旧が容易です。

ここで重要なのがコストの問題ですが、送電鉄塔の倒壊(大停電)というリスクを考えると、少々高くついても致し方ないと思います。しかも原油価格が高騰を続けると、コストが高いとは言えない状況が生まれます。資源の枯渇に向かっている現在、今の原油高は決して一時的なものではないと思われます。

◆低炭素社会から低エネルギー社会・脱炭素社会、そして低資源消費社会へ

日本もようやく低炭素社会への移行を検討し始めました。低炭素社会とは二酸化炭素の排出が少ない社会のことで、二酸化炭素を発生させる炭素を含む化合物の使用を削減することを目的にしています。最近は低炭素社会から脱炭素社会を志向しています。

2007年2月に環境省が発表した「脱温暖化2050プロジェクト」の成果報告書によると、「我が国が、2050年までに主要な温室効果ガスである二酸化炭素を70%削減し、豊かで質の高い低炭素社会を構築することは可能である」と結論づけています。

これは素晴らしい進展です。しかし、「1990年に比べて2005年から2012年までの間に温室効果ガスを6%削減する」と約束している京都議定書の目標ですら達成できなかった状況では、世界各国から本気かどうか疑われても仕方がありません。

私たちは、政府に任せるだけでなく、個人個人が積極的に低炭素社会を実現させることに関わっていかなければなりません。全力を尽くして実践の輪(環・和)を広げていこうではありませんか。

そのために、あらゆる人たちがパートナーシップを結びアイデアを出し合い実現に向けて実践することが、温暖化はもちろんSDGsを達成するために不可欠のことだと思います。

ただ私としては、「低炭素社会(脱炭素社会)を実現するには、原子力発電の推進が必要」という前提が含まれていることに懸念を抱いています。

それは、「事故やテロ発生時のリスクが大きい」とか「核廃棄物の処理ができない」ということだけではありません。例えば「台風などによる暴風で送電鉄塔が倒壊し、復旧不能な大停電が起こる」問題に対してです。送電ロスのほとんどない電線が実現したとしても、倒壊というリスクがなくなる訳ではありません。そのためには「送電鉄塔が倒壊し、復旧不能な大停電が起こる」問題を単なるコストではなく、国防問題として捉えることが必要なのではないでしょうか。

近未来については、現状の電力消費量をまかなうために原子力発電を過渡的に使うのは已むを得ないと思います。しかし、この期間を最小限にするために私たちは、「脱低炭素社会」から「低エネルギー社会」に移行する必要があります

そして、最終目標は「低資源消費社会」の実現です。すべてを最小の資源でまかなうことのできる社会これを達成して初めて、「循環型社会という循環に近いけれども、循環そのものではない社会」を経て、真の「循環社会」が実現するのではないでしょうか。

次号では気候変動の問題について、さらに詳しく考えてみたいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二