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郡嶌コラム 第9回「省エネとリバウンド ー『ジェボンズのパラドックス』」

郡嶌コラム

2021年2月28日

郡嶌コラム 第9回「省エネとリバウンド ー『ジェボンズのパラドックス』」

同志社大学名誉教授・おおさかATCグリーンエコプラザ顧問の郡嶌 孝氏による特別コラムの第9回を配信いたします。


「待ったなし」の温暖化問題である。基本的には、温暖化問題は基本的には、エネルギー問題ではあるが、エレン・マッカーサー財団は、化石燃料を燃やすことで排出される温室効果ガスは全体の55%にとどまり、経済活動によって生じる残りの45%への対策を講じなければ、2050年のネットゼロの達成は難しい、として全産業を挙げての取り組みを求めている。温暖化問題への取り組みは「総力戦」なのである。

さて、それはさておき、エネルギー政策としてみた場合、温暖化対策は、エネルギーの効率化(省エネ)、そして、再生エネルギー化(エネルギー構成の変更)が中心となり、省エネ化対策は大きな役割を背負っている。しかし、一方で、エネルギー効率を高めることは、さらにエネルギー消費を増やす可能性があるとも指摘される。いわゆる、「リバウンド効果」である。

この問題は「ジェボンズのパラドックス」として知られている。産業革命からほぼ100年後、当時の主要なエネルギー源であった石炭の枯渇問題に関する論争である。技術進歩により、石炭利用の効率性の向上の結果、石炭の枯渇は杞憂に帰すという楽観論に対して、スタンレー・ジェボンズは著書『石炭問題』において、技術進歩による石炭の効率的な利用が可能となった結果、その技術の汎用性によって、広範な産業において石炭が使われるようになり、必ずしも、石炭の消費量の減少をもたらすとはいえず、むしろ、増加させてしまう(枯渇を促進する)可能性を論じた。

エネルギー効率の改善は、ある特定の利用に必要な石炭量を減らす。他方で、石炭利用コストを下げ、新たな石炭需要を呼び起こし、エネルギー効率の向上によって得られた石炭の節約分は相殺されるのみならず、エネルギー効率の向上によって、経済成長が促進され、経済全体にさらなる石炭需要が見込まれるという(技術の汎用性)。「ジェボンズのパラドックス」は、石炭需要の増加分が節約分を上回り、経済全体として石炭利用が増加する(バックファイヤー効果)ときに生じる。技術進歩が問題の解決(枯渇の回避)をもたらすよりも、むしろ、問題を生じるというのである。

ならば、このような技術進歩によるエネルギー効率の向上、省エネが無駄であるかというと、効率の向上によるコスト差が、たとえば、エネルギー税やその他の省エネ政策によって、同程度、もしくは、より高く維持されれば、(需要を増やさなければ)、石炭使用量は減る(省エネ効果はある)。増えるか減るかは需要者・消費者の行動如何に関わり、単なる技術対応だけで、ことに処す限界を示したものといえよう。そして、何よりも、技術の向上に伴って、需要を増やさないという行動が求められることを示している。

確かに、今日、石炭に限らず、エネルギー利用の効率性(エネルギー効率)と資源利用の効率性(資源効率)の向上は、その資源を使用して生産された製品価格、そして、資源価格そのものの下落によって、さらに、エネルギー価格の下落により、割安感(代替効果と所得効果)をもたらし、つい、より多くを消費する誘惑(免罪符ーモラル・ライセンス)に駆られる。従来通りの消費であれば省エネとなるが、さらなるより多くの需要の発生によって消費量は増加する。一般に、省エネ量の計測や省エネ基準の設定において、需要は変わらないという前提が想定されているので、省エネは過大評価されており、「エネルギー効率の向上は、エネルギー消費を減らさずに、むしろ、増やすように作用する」という主張(ダニエル・カズーム–レオナード・ブルックス仮説)もある。

エネルギー効率や資源効率の向上は、価格の下落をもたらすが、これを需要・消費の増加につなげるのか、それとも、従来どおりの需要・消費にとどめるのか、すべては我々の行動にかかっているのである。日頃の習慣として、省エネを心がけるしかない。

コラム著者

同志社大学名誉教授・おおさかATCグリーンエコプラザ顧問

郡嶌 孝