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郡嶌コラム 第8回「フードロスと「貧困」問題―SDGsの視点を―」

郡嶌コラム

2021年1月28日

郡嶌コラム 第8回「フードロスと「貧困」問題―SDGsの視点を―」

同志社大学名誉教授・おおさかATCグリーンエコプラザ顧問の郡嶌 孝氏による特別コラムの第8回を配信いたします。


「経済」という本来の意味での「経済」とは、「生きるために」「分かち合う」「人間の経済」あるいは「命の経済」(実体経済)であり、経済にとって、衣食住の確保は基本的ニーズである。とりわけ、「食」の安全保障(安定供給)は、「食べて暮らして生きる」あるいは「よりよく生きる」営みを支えることであり、まずもって、充足されるべき根本的「ニーズ」である。そして、この「ニーズ」は、もちろん、「将来世代のニーズを損なうことなく、我々現世代のニーズが充される」ニーズでなければ、「持続的」とはいえない。

しかし、現状は、将来世代はおろか、現世代でおいても、途上国においてのみならず、発展国においても食べることができない「飢餓」「貧困」に見舞われている。しかも、驚くべきことは、国連食糧農業機関(FAO)によると、世界全体として、食糧生産は現世代のお腹を満たすのに十分な生産が行われているにもかかわらず、その恩恵を受けることができない人々がいるという現状が存在しているということである。食べるために生産された食糧の三分の一、13 億トンが毎年口に入ることもなく無駄に廃棄されている。

これは、生産されても、経済的理由や制度的理由、宗教上の理由や文化的理由等によって、口にされないまま捨てられる食品ロス・廃棄、飽食による食べ残し、冷蔵庫の「肥やし」となった食されずに捨てられた食品が存在するということを示している。

欧州議会は、2014年を「ヨーロッパ反食品廃棄物年」とし、欧州委員会は2025年までに食品ロス30%削減を掲げた。この動きは、国連に大きな影響を与えた。一昨年(2019年)、第74回国連総会は、毎年9月29日を「食品ロス・廃棄に関する啓発の国際ディー」とすることを決めた。2020年はその第1回目にあたったが、コロナ禍にあって、残念ながら、関係者以外に広く周知されることはなく、盛り上がりに欠けた。

さらに、国連はSDGsの12.3において、2030年までに、食品ロス50%削減を掲げている。これらの動きは、EUでの「食品ロス」の取り組みに刺激されたものであるが、これは単なる「食品ロス」問題として片付けられる問題ではない。食糧生産のために費やされた「水」「土地の肥沃度」の問題でもあり、生産や輸送に伴う二酸化炭素・メタンガスの排出問題、「温暖化」問題でもある。廃棄された食品からのメタンガスや肉食化に伴う肉牛生産、その飼料による牛のゲップもメタンガスであり、二酸化炭素よりも温暖化係数が高い。欧米では、ここから、肉食を減らして、菜食主義化の運動が盛んである。

「食品ロス」問題とは、「食品ロス問題と貧困・飢餓問題」「食品ロスと温暖化問題」なのである。先進国での取り組みは一見「貧困・飢餓」の問題とは考えられないように見えるが、そうではない。失業者・ホームレス・低所得者といった社会的弱者にとっては、切実な「命の経済」なのである。

2016年、フランスで「食品廃棄禁止法(反フードロス法)」が成立した。販売延床面積400平方メートル以上の小売店(スーパーマーケット)に①貧困者支援(助け合い)組織との間で食料提供の契約の義務づけ②そのため、店舗は、賞味期限が近い余剰食品を仕分け、食料に適するものを支援組織に寄付、適さないものを家畜の飼料や農地還元用の肥料として有効活用しなければならない③廃棄食品の「破壊」禁止義務。賞味期限切れの食品を処分する際に、ホームレス等の「ごみ箱」漁りを防ぐために、意図的に化学薬品等で「食品」の破壊を慣習としていたが、この破壊行為の禁止、が禁止法の主な取り組みである。これに違反した場合、重い罰金や禁固刑が科される。この法律には、スーパーマーケットからの反対が多かったが、議会では全会一致で可決された。同様の法律はイタリアでも成立している。

コロナ禍で事態はもっと深刻である。社会的弱者への「支援」「助け合い」から「余剰食品を自由に提供(持ち寄り)し、必要な人が自由に持ち帰ることができる「おすそ分け」「分かち合い」へと進化している。もともとは、スペインの「連帯冷蔵庫」から始まり、イギリスやアメリカでは「コミュニティ冷蔵庫」「フリーパントリー」と呼ばれる。「困っているのはお互い様」から出発したこの「おすそ分け」は、目線を同じ高さに置いた自主的な「共助」組織である。我が国でも展開してほしい「支援(助け合い)」から「分かち合い」への取り組みである。

コラム著者

同志社大学名誉教授・おおさかATCグリーンエコプラザ顧問

郡嶌 孝