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特別コラム 第23回「儲けと利益の本質」

コラム

2022年2月25日

特別コラム 第23回「儲けと利益の本質」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。

今回は、”儲けと利益の本質”について考えてみたいと思います。

■戦いのための戦いはするな

唐突ですが、経営戦略でよく引き合いに出される『孫氏の兵法』の火攻篇を見てみましょう。

それ戦勝攻取してその功を収めざるは凶なり。命(な)づけて費留(ひりゅう)と曰(い)う。故に曰(いわ)く、明主はこれを慮(おもんばか)り、良将はこれを修む。利にあらざれば動かず、得るにあらざれば用いず、危うきにあらざれば戦わず。

口語訳は次の通りです。

戦争して勝利したとしても、その戦果を収めなければ何の意味もない。これは単なる「浪費」にすぎず、「骨折り損のくたびれ儲け」である。ゆえに名君名将は、常に戦争の目的をけっして忘れず、戦いのための戦いはしない。有利でなければ行動を起こさず、得るものがなければ軍を用いない。

これを経営的に表現してみます。

 

 

ビジネス戦争に勝利したとしても、本来の目的を達成していなければ何の意味もない。例え最後の1社になり得たとしても、利益が思ったほど得られないばかりか、予想以上の出費を招き、自社の経営を圧迫したのでは、いったい何のために戦ったのかまったく分からない。

しかも、ライバル企業から恨みを買い、世間からも「冷酷な企業」というレッテルを貼られる。これでは、本来の企業の目的である「一定の利益を得ることと社会への貢献を同時に満たし、ゴーイング・コンサーン(継続企業)として永続すること」など夢のまた夢で、まさに「骨折り損のくたびれ儲け」である。

だから、すぐれた経営者は、本来の目的を決して忘れず戦いのための戦いはしない。短期的な利益に目を眩ますことなく、長期的も含めてトータルとしてのメリットがなければ、行動を起こすことはない。あくまでも戦いは最後の手段である。

 

 

◆「儲け」と「利益」の本質

ここで「儲け」について考えてみましょう。

この不況下(最近はコロナ禍)にあって、各企業は熾烈な競争に明け暮れています。「長期の理想を言っても意味がない。今、生き残れるかどうかが問題なのだ」「とにかく儲けなければ、従業員に給料も払えないじゃないか」というわけで、「金儲け」至上主義が世の中を席捲しているようです。

SDGsへの取り組みが遅れている方にお聞きすると、「コロナの影響でSDGsどころじゃない。いま儲けなければ会社が倒産してしまい、社員とその家族が路頭に迷ってしまう」と仰います。

確かに「儲け」は大切なことです。しかし「儲け」即「お金」というのは何か空しい感じがします。

一般に、「儲」という漢字を分解すると「信者」となり、信者を増やすことが儲けにつながると言われます。しかしそれ以上に重要なことは、この字のどこにも「お金」を象徴するものがないということです。普通「お金」を意味する漢字は貝偏(かいへん)になるはずですが、儲という字は人偏(にんべん)です。

先人は、「儲けとは人儲け(一儲けをたくらむの意味ではありません)のことである」と教えています。「人儲けによって周りを幸せにした結果としてお金がついてくる」というのが「儲け」の本質です。つまり「昨日いくら儲かった」ではなく「昨日何人儲かった」が正しい表現というわけです。

本当の「人儲け」を実現するためには、利他の心に富んだ、ギブ・アンド・ギブ(無条件の愛・まごころと思いやり)の心が必要です。この心を持った経営者の方々がネットワークでつながったとき、本当の意味で「儲かる」企業が続出することでしょう。

◆まったく異なる2つの利益

次に、企業経営にとって不可欠である「利益」について考えてみましょう。

前項で、「儲け」とは「人儲け」のことであり、「人儲けによって周りを幸せにした結果としてお金がついてくる」、ということを述べました。では「人儲け」をするためにはどうすれば良いのでしょうか?

ダスキンの故駒井茂春会長が「儲けというのは英語でいえばprofit(プロフィット)とgain(ゲイン)のふたつがある。profitというのは、人様や自然に喜びを与えることによって結果として得られる利益、gainというのは自分の代わりに誰かが損することによって得られる利益である。このふたつの違いをまったく理解していない経営者が多すぎる。gainの追求なら誰でもできる。profitの追求こそ経営者の使命である」というようなことを語っていました。

私は、gainを「利己益(自分さえ良ければ相手のことは知ったことではないという自分勝手な利益)」、profitを「利他益(世の中の人に喜んでいただいた結果として入ってくる利益)」または「ご利益(ごりやく)」と解釈しています。

確かに、強引な値引き交渉(強要)がまかり通っている現状を見ると、駒井会長の指摘には、うなずけるものがあります。

この背景には、

①短期的視野に立った安易な利益獲得志向、
②「買ってあげている」という取引の基本を忘れた態度、
③たくさん買うほど安くなるという生態系の再生能力を無視したコスト・価格体系

などがあります。

いずれもSDGsはおろか、本来の経営目的からかけ離れていることが分かります。

皆さんも、自社の経営目的を明確にし、企業経営を遂行するに際しての指針とされるようお薦めします。
もちろんSDGs経営の基本でもあります。

次回は心理療法の大家であるカール・ロジャースの言葉をご紹介したいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二