Eco Business Information
環境ビジネス情報

環境ビジネス情報

特別コラム 第14回「環境に優しい商品では価格競争に勝てない」

コラム

2021年5月31日

特別コラム 第14回「環境に優しい商品では価格競争に勝てない」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。

今回からは、「環境に優しい商品では価格競争に勝てない」について考えてみたいと思います。

いまだによくある思い込みは、「環境に優しい商品は割高なので、安い価格で提供しないと消費者に受け入れられない(価格競争に勝てない)」というものです。

実際はどうなのでしょうか。

SDGs時代にあってサステナブル経営が果たすべきこと・その2

■計画的陳腐化戦略から地球満足経営へ

地球満足という言葉は、学術用語ではなく、私が1990年頃から使っている造語です。

これまでも『「環境」で強い会社をつくる(2001年1月発行)』や『これで解決!環境問題(2003年4月発行)』(いずれも総合法令出版)などで公表してきました。造語ではありますが、今のところ批判を受けていません。今回も前掲書と同じような解説になりますが、大切なポイントですのでご容赦ください。

ただ現在はSDGsへの関心が高まっているので、「SDGsの達成を目指した”地球満足”」であると認識してください

さて顧客満足(CS:Customer Satisfaction)はもはや常識となり、各企業は顧客を満足させる商品やサービスの開発に全力をあげて取り組んでいます。さらに、従業員の満足なくして顧客を満足させることは困難であるとの考えから、従業員満足(ES:Employee Satisfaction)を経営方針に掲げる企業も多くあります。

これらは、従来の「生産者中心の自社満足志向の経営」から脱却したという点で大いに評価できます。しかし、地球環境問題の深刻化や地球の有限性(資源量・廃棄場所・自浄能力はすべて有限)を考えると、まだ不十分だと言えます。

◆砂時計のたとえ

地球の有限性については、「砂時計のたとえ」が分かりやすいと思います。

ここで【問題】です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今ここで、砂時計を1回ひっくり返すと3分間計ることができます。
正確に計測してみると、1秒間に5ミリリットル砂が落ちていました。
砂時計をひっくり返したとします。

さて、今この砂時計をひっくり返したとすると、縦3メートル、横5メートル、
高さ2メートルの部屋いっぱいに砂が貯まるのは何日後でしょうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そんなアホな!」とか「バカにするな!」という声が聞こえてきそうです。

しかし、現実を見てください。

石油、炭水、鉱物資源、森林資源・・・・。

「このままずっと存在し続けることはない」とは知っていながら、永遠に存在するが如く消費し続けているのではありませんか。「今の状態が続くとすると」とあり得ない仮定を平然とやってのける経済学者も、「経済成長を永遠に続けなければならない」と錯覚している政治家や経営者も・・・・。「砂時計のたとえ」を笑い飛ばすことができるでしょうか。

砂時計に「容器中の砂の量」という制約条件があるように、この地球にも「資源量」「廃棄場所」「自浄能力」の有限性など、だれでも知っている「制約条件」があるのです。

※補足

ここでは【問題】の正解ではなく『解答例』を挙げます。

実は以前、たくさんの方にチャレンジしていただきました。
いただいた解答を分類すると、3つに集約できます。

1つは、
部屋の体積を計算して、砂時計の1秒間に流れる量で割り算する、というものです。
この計算によると1666時間40分、70日目になります。

2つめは、
この砂時計は3分間計れる量しか入っていないので、砂がなくなれば終わり、部屋いっぱいになるはずがない、というもの。

3つめは、
部屋の中に砂を落とすとはどこにも書いてないので、部屋の中が砂でいっぱいになることはずっとない、というもの。

どれも、正解ですね。

私がイメージしたのは2つ目ですが、あとで述べるように発展形があります。

2つめの解答例から、何をイメージするでしょうか?

私は地球の有限性をイメージします。

地球の有限性には3つあると思います。

「資源量の有限性」、「捨てる場所の有限性」、そして「自然浄化作用(自浄能力・環境容量)の有限性」です。

この【問題】では、資源量の有限性が関連しています。

砂時計の砂に相当するのは石油を中心とする化石資源です。

「砂時計の砂がなくなれば、それで終わり」と同じように、化石資源がなくなれば今の社会を維持することができません。

しかし、石油が無限にあるかの如く振る舞っているのが現状です。

地球の体積は有限ですし、石油の残り分が少なくなると石油の純度が低下し、精製するためのコストも採掘コストも飛躍的に上昇してしまいます。

「気づいているが、現在のシステムに乗っかっている以上、走り続けるしかない」というのが本音かも知れません。

でも、確実に化石資源が枯渇する時がやってきます。

「いつかこんな日が来ると分かっていたのに・・・・」と後悔する前に、一刻も早く「地球の3つの有限性」に気づき、軌道修正(軌道変更)すべきと思いますが、皆さんはどうお考えですか?

ところで、先に「あとで述べるように発展形がある」と書いた件ですが・・・・

私たちには、「1つの答が見つかった瞬間に思考停止してしまう」という傾向があります。

それが本質に近ければ近いほど、次の正解を見つけようとする意識が萎えてしまうようです。

実は、この問題で『砂時計がいくつあるか?』には触れていません。

でも多くの方は、「1つだけ」と勝手に解釈したかも知れません。

もし、砂時計が10万本あったとしたら?

実際に、この部屋を満杯にしようとすると、3万3333本ほどあればいいことになります。

また、1本しかなくても3万3333回繰り返せば、満杯にすることができます。

実は、これはリサイクルの意義に繋がる重要な発想です。

エコに限らず、SDGsにおいても解決する方法は無数にあります

 

 

問題解決が目的になってしまうのではなく、創造性を活性化させることを意識することをお奨めします。

 

人間の創造力は無限です。

創造力を活かして出てくるアイデアも無限です。

この問題を切っ掛けに、物事を様々な観点から眺めてみてはいかがでしょうか?

まさにこのことが、私の「SDGsと創造性開発とを連動させるべき」という主張の原点なのです。

■地球満足と地球不満足

私は「顧客満足」や「従業員満足」の前提条件として、「地球満足(GA:Global SatisfactionあるいはGaia Satisfaction)」志向が必要だと考えています。

ここでいう「地球満足」とは「循環、共生、調和、ほどほど」さらに言えば「足るを知る」「もったいない」という地球のニーズを満たすことを意味します。地球満足を考慮しなければ、自分のことしか考えない「わがまま集団」を限りなく「わがまま」にしてしまう可能性があります。

つまり地球のニーズを知らない、あるいは無視する消費者のモア・アンド・モアの欲望を刺激し、環境に対する負荷を際限なく増大させてしまうということです。ちなみにわがまま集団」の主要な特徴として、「大量生産・大量消費・大量廃棄、不必要最大限、競争・比較志向」が上げられます。

これまで行われてきた経営活動は、この「わがまま集団」を拡大することに偏重しすぎていたように思えます。

そのため、あくなき欲望を満たす商品・サービスの開発を永遠に続けなければならなくなってしまいました。しかもこの集団の購買動機は「満足するものを安く買うこと」ですから、コストの増加(上昇)を価格に反映できず、薄利多売を極限まで追求せざるを得なくなっているのです。

そこで多くの企業は、大量生産によって商品の単価を引き下げ、大量に販売する政策を採用することになりました。頻繁にモデルチェンジを繰り返したり、保証期間が過ぎるとできるだけ早く壊れてしまう商品を開発したりといった、いわゆる「計画的陳腐化戦略」がその代表的なものでしょう。

しかしこの戦略は、「地球不満足」であることは明らかであり、環境的にも社会的にも貢献しているとは言えません。

すでに環境への取り組みによって企業イメージが左右され、ESGは言うまでもなく株価や業績にまで影響するようになってきました。

これからは、環境負荷や資源使用量を格段に低減する目的以外の「計画的陳腐化戦略」は成り立たないと考えるべきでしょう。

それでは「地球満足の経営」には、どのような方策が考えられるのでしょうか。

■薄利多売方式の終焉

私は、これからは「地球満足経営(SDGs経営ひいてはESG志向経営)」が不可欠になると思っています。

前述のように、今後は地球のニーズに合致した行動が求められます。地球のニーズの範囲内であれば、従業員満足・顧客満足・自社満足をどんどん進めてもいいのです。

すでに、いわゆる「薄利多売方式」は成り立たなくなってきています。

量販店などがいくら営業時間を延長したとしても、それだけで効果が上がるものではありません。

というのは、薄利多売方式が成り立つのは2つの条件が必要ですが、2つの条件ともに崩れてきているからです。

1つは、「早く捨てさせる」ということです。薄利多売の商品を大切にずっと持たれたら売れなくなって困るので、どんどん捨てさせてリピートさせるのです。

もう1つは、「捨てるときにお金が掛からない」、つまり「捨てるコストはタダ、もしくは限りなくタダに近い」ということです。

ところが、例えば1年間で壊れる商品は、最近は見向きもされなくなりました。また、ごみの有料化が進んでいて、「捨てれば捨てるほどお金がかかる時代」になっています。

このような状況下で、「どんどん捨てさせる方式」が成り立つはずがありません。すでに多くの人は、SDGsの進展もあって、捨てるときのこと(負担)を考えて購入し始めています。

もはや従来の「ごみにして捨てなさい」という計画的陳腐化戦略が終焉を迎えたと言ってもいいと思います。

◆2枚の絵の話

では、今後はどのような商品やサービスが望まれるのでしょうか。

これも拙著『「環境」で強い会社をつくる』でも紹介したことですが、“2枚の絵の話”がヒントになります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

“2枚の絵の話”

例えば画商のもとにピカソの原画が2枚あったとします。1枚の単価は100万円です。
あなたは2枚とも気に入り、両方買いたくなりました。そのとき皆さんなら、どういうふうに交渉するでしょうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

多くの人は、「2枚買うから、まけてよ」と言うのではないでしょうか。

ところが、今の北欧などは「2枚買うのだったら、最大限安くして250万円(金額を問題にしているのではありません)」と言うでしょう。

どうしてだかお分かりでしょうか?

私は原画と言いましたね。世界で本当に1枚ずつしかないのです。
世界で2枚しかない物が2枚あるときに、単価が100万円。

誰かが1枚100万円で買ったとします。

あと残りは世界で1枚です。

それなのに、どうして安くしなければならないのでしょうか。

世界で2枚あった時に単価が100万円だったのですから、世界で1枚しか残っていないとすると(需要と供給の関係から)当然単価が高くなるはずです。

画商としては「世界で1枚という希少価値の絵だから本来は売りたくありません。でも、どうしてもというのなら150万円でお売りしましょう。だから2枚だったら250万円です」と考えた訳です。

なんだか煙に巻かれた感じがするかもしれませんね。

でも、画商の言うことも一理あるのです。

私たちが「たくさん買うから負けてよ」と言えるのはレプリカの場合です。模造品です。

倉庫を見に行ったら、同じ絵(もちろん模造品)が100枚、200枚もある。現状の経済システムでは、100枚作れば単価が安くなるので、たくさん買えば買うほど安くなる。

原画と模造品の違いを考えれば当たり前のことですが、薄利多売に慣れてしまっていると「当たり前のことに気づかなくなる」一例です。

◆資源は、たくさん使えば高くなるのが自然

現状の経済システムでは、石油などの天然資源は多く買った方が安くなります

ところが自然の資源(天然資源)というのは、たくさん使えば使うほど高くしていかないと成り立ちません。本来、木をたくさん伐れば伐るほど、石油もたくさん取れば取るほど高く売らないと、経済的にも環境的にも持続可能ではなくなるのです。

木を1本切るだけだったら、再生のために苗木を1本植えればいいのです。

しかし、例えば机を作るために大量に木を伐ったとすると、その巻き添えになる木がたくさんあります。また土地を整備したり、道を作ったりして生態系が崩れます。当然、木が少なくなると、保水能力や光合成の能力が小さくなります。

これらを回復させようとすれば、莫大な費用がかかります。植林するにしても、植林そのもの、間伐などに多くの人手とコストを必要とします。

石油も同じです。以前は油田を掘ったら高品質の石油を楽に(低コストで)得ることができました。しかし、大量のくみ上げによって石油の残量が少なくなってきたら、かなりのコストが必要になります。石油も残り少なくなってくると、使えば使うほど価格を高くしていかないとコスト的に成り立たなくなってしまうのです。

石油資源が枯渇に向かっている状況を考えると、単に価格が高騰するだけでなく、「多く使えば使うほど累進的に価格を高くする」という政策がとられる可能性(リスク)を考えておくことが不可欠だと思います。

■環境に優しい商品(エコプロダクツ)で価格競争に勝つ方法

環境ビジネスに取り組む際の障壁として、「環境に優しい商品(以下、エコプロダクツとします)は価格が高いので、価格競争に勝てない」という考えがあります。確かに一般論ではそうとも言えますが、訴求方法を変えることで受け入れられる場合があります

エコプロダクツを「価格だけの勝負」に持ち込まないためには、会社(使用者・消費者)のニーズに合わせた提案をすることです。

企業の主たる目的は「売り上げ増」と「利益増」ですが、この目的を達成するために重要視されているニーズが3つあります。「コストの低減」「企業リスクの回避」「環境負荷の低減」です。

エコプロダクツを提案する際に、3大ニーズの1つだけにしか触れなければ、恐らく「値段が高すぎる」「コストが合わない」と言われるだけでしょう。

ところが、「実はこの商品をお使いいただくと、コストの低減、企業リスクの回避、環境負荷の低減、3つともこの製品で実現できるのですよ」と説明すると、展開が変わってくる可能性があります

ユーザーが3つのニーズをそれぞれ別々の商品・サービスで考えていたとしたら、1つの商品で3つとも可能になることを伝えることで、交渉次第で採用してくれる可能性があります。

たとえ購買担当者から環境負荷の低減だけが求められていたとしても、見積り時に、その商品・サービスが「コストの低減」「企業リスクの回避」「環境負荷の低減」という3大ニーズのすべてに貢献することを提示するのです。

すると購買担当者だけでは対処できないので、計画の全体を把握している人(決裁権のある人)に提案が上がることになります。こうなれば、採用の可能性が高まることは間違いありません。

環境負荷の低減に対して50万円の予算を組んでいた会社に100万円の商品を提示しても価格的に合いませんが、3大ニーズにそれぞれ50万円、計150万円の予算を計上していたとすると、100万円の商品は非常に魅力的なものになります。

自分の商品に自信があればあるほど、「良い物は売れるに違いない」と錯覚しているものです。

しかし、その商品を最終的に買ってお金を払うのは会社(企業)です。会社(企業)の理念や方針に合わない商品やサービスが売れる確率は非常に小さいのです。

可能な限り経営理念や経営方針を調べて、その精神に沿った提案をすることが大切です。

幸いなことに、3大ニーズはたいていの企業の経営理念や経営方針に合致しています。

エコプロダクツを提案する際は、いかなる場合でも3大ニーズへの貢献を訴求することを心がけてください。

ましてや今はSDGsの時代です。

SDGsはすべて繋がっているので多くの人の想像力(創造力)を育て発揮させて、3大ニーズだけでなく、さらに多くの課題(問題)を解決する技術や商品を生み出していただきたいと思います。

その際、前述の「(私たちは)1つの答が見つかった瞬間に思考停止してしまう」という傾向に充分留意して、多くの答を創造してくださいね。

次回は、「環境経営に取り組むと会社が成り立たない?」について、さらに詳しく考えることにします。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二