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特別コラム 第13回「SDGs時代にあってサステナブル経営が果たすべきこと」

コラム

2021年4月28日

特別コラム 第13回「SDGs時代にあってサステナブル経営が果たすべきこと」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。

今回からは、「SDGs時代にあってサステナブル経営が果たすべきこと」について考えてみたいと思います。

SDGs時代の環境経営について

環境経営とは、簡単に言えば「環境に配慮した経営を行うこと」です。一般的には、「企業のあらゆる活動に環境という視点を優先的に持ち込み、環境保全と経営の両立を図ること」と考えていいと思います。

ただ、SDGsが主流になりビジネス界にも大きな期待がかけられている現在、さらに「地球全体を考えた環境経営」に進化・深化するべきです。そこで私は、それを「SDGs時代の環境経営」として次のように定義しています。

SDGs時代(サステナブル時代)の環境経営とは、

①地球上のあらゆる生態系(生物多様性)および社会の持続性を確保するために、
②循環(大気の循環、水の循環、食物連鎖という命の循環)の視点に立ち、
③資源量・廃棄場所・自浄能力という地球の有限性を考慮し、
④企業収益の確保と環境保全とを両立させ、
⑤人間を含むすべての動植物の尊厳を守り、
⑥自社にとっての持続性を確保するために行う経営の諸活動である。

※この定義は1995年に私が独立したときに作成しました。但し当時は持続性ではなく永続性という言葉を使っていました。またサステナブル時代・①の生物多様性・⑤については2017年に付け加えました。世界に認められた定義ではないことにご注意ください。

ここで大切なことは、「企業と地球いずれにとっても持続可能でなければならない」ということです。

SDGsに関する環境経営を行っていると自称する企業が増えてきましたが、本気になって実践しているところはどれほどあるのでしょうか。

そこで見分け方ですが、①実際にサステナブル経営を行っているか、②経営理念に謳っているか、③社長が年頭所感で明確に述べているか、③一般の社員がしっかり理解しているか、④環境担当者の本音はどうか(経営課題そのものであるはずのSDGsを環境部門に押し付けられた、など結構愚痴が多いですよ)、などを確認してみることをお薦めします。

特に①が表面的だけのものであれば、グリーンウォッシュならぬSDGsウォッシュ(偽りのSDGs)と揶揄されかねませんよ。

本当にSDGs環境経営(以下、サステナブル経営と表現します)を行っている企業を見いだし、応援し(応援し合い)、世間に公表していくことが必要です。素晴らしいことをしている企業が良い意味で儲かり成長する社会を構築していきたいものです。

サステナブル経営に対する思い込みを解く

SDGsを達成するには環境問題の解決は絶対必要だから、サステナブル経営に取り組まなければならない。

と口では言うものの、中小企業を中心に取り組みをためらっている企業が多いようです。その主な理由は「サステナブル経営に対する思い込み」、特に「ネガティブな思い込み」にあるようです。これではサステナブル経営に取り組む動機づけにはなりません。

そこで今回からは、世間に広がっている「サステナブル経営に対する思い込み(ほとんどが従来の環境経営時代からの思いこみ)」をいくつか取り上げ、「思い込みの打破」を試みたいと思います。

サステナブル経営、ひいては環境保全の進展を妨げている要因を少しでも取り除くことができたら幸いです。

環境経営に取り組む余裕がない

これは、私が最も多く耳にする「思い込みの声」です。

実は、下の①~④について拙著『「環境」で強い会社をつくる』(2001年1月:総合法令出版)に書いたことです。但し、当時はサステナブル経営ではなく環境経営としていました。しかし、今でも多くの企業経営者が同様のことを考えているようです。特に不況時(特に現在はコロナ不況禍)には、「こんな大変な次期にサステナブル経営に取り組む余裕なんてない。いま生き残れるかが問題なのだ」という声があちらこちらから聞こえてきます。

まさか20年以上もたって同じことを書くとは思っていませんでしたが、現実だから仕方ありません。いま改めて考えてみたいと思います。

①地球で起こっている諸問題の実態を知らない、あるいは知らされていないので使命感が湧かない。
②サステナブル経営に取り組むための、人材(人財)、資金が足りない。
③値下げ要求など、親会社や得意先からの締め付けがきついので、とてもサステナブル経営まで手が回らない。
④サステナブル経営に取り組んでも儲からない。

この4つは、特に中小企業(最近は大企業も)がサステナブル経営に取り組む際の障害の代表的なものです。

しかし、これらの障害は「サステナブル経営」に限ったことでしょうか。

過去を振り返ってみると、これらは「情報化」や「人財育成」などの必要性が叫ばれたとき、必ず出てくる「できない理由」であることが分かります。

・「情報化」の実態を知らない、あるいは知らされていないので使命感が湧かない。
・「情報化」に取り組むための、人材、資金が足りない。
・値下げ要求など、親会社や得意先からの締め付けがきついので、とても「情報化」まで手が回らない。
・「情報化」に取り組んでも儲からない。

「  」の中に人財育成、店舗のリニューアルなどを入れても同じことです。環境経営に限ったことではありませんね。

このように、いつの時代でも「できない理由(したくない、あるいは変わりたくない言い訳)」がまず前面に出てきます。しかし、必ず「できる理由」を探し出す努力をする企業が少数ながら出現します。そしてこれらの企業が、後に成功企業として脚光を浴びることになるのです。

情報化に取り組んで、成功した企業も失敗した企業もあります。人財育成に取り組んで活性化した企業も衰退した企業もあります。

同様に、サステナブル経営に取り組んだとしても「必ず成功する(儲かる)という保証」はありません。そこには、社風、コミュニケーション、財務体質など、経営の根幹にかかわる問題が複雑に絡み合っているからです。

しかし、どのような場合でも成功するにはとにかく「実践する」ことが第一です。

しかも、サステナブル経営は何も特別なことをしようというのではなく、企業として当たり前のことを当たり前に実践すればいいのです。

では、どう実践するのでしょうか?

これから、その方法やアイデアを紹介していきます。「自分ごと」として本気でサステナブル経営に取り組み、企業の発展と環境改善の両立を実現し、ひいてはSDGsの達成に貢献してください。

◎「儲け」と「利益」の本質

蛇足かもしれませんが、ここで「儲け」について考えてみましょう。

この不況下ににあって、「長期の理想を言っても意味がない。今、生き残れるかどうかが問題なのだ」「とにかく儲けなければ、従業員に給料も払えないじゃないか」というわけで、まだまだ「金儲け」至上主義が世の中を席捲しているようです。

確かに「儲け」は大切なことです。しかし「儲け」即「お金」というのは何か空しい感じがします。

一般に、「儲」という漢字を分解すると「信者」となり、信者を増やすことが儲けにつながると言われます。しかしそれ以上に重要なことは、この字のどこにも「お金」を象徴するものがないということです。普通「お金」を意味する漢字は貝偏(かいへん)になるはずですが、儲という字は人偏(にんべん)です。

先人は、「儲けとは人儲け(一儲けをたくらむの意味ではありません)のことである」と教えています。「人儲けによって周りを幸せにした結果としてお金がついてくる」というのが「儲け」の本質です。つまり「昨日いくら儲かった」ではなく「昨日何人儲かった」が正しい表現だと(私は)思います

本当の「人儲け」を実現するためには、利他の心に富んだ、ギブ・アンド・ギブ(無条件の愛・まごころと思いやり)の心が必要です。この心を持った経営者の方々がネットワークでつながりパートナーシップが構築できたとき、本当の意味で「儲かる」企業が続出することでしょう。

◎まったく異なる2つの利益

次に、企業経営にとって不可欠である「利益」について考えてみましょう。

先に「儲け」とは「人儲け」のことであり、「人儲けによって周りを幸せにした結果としてお金がついてくる」、ということを書きました。では「人儲け」をするためにはどうすれば良いのでしょうか?

ダスキンの故駒井茂春会長が「儲けというのは英語でいえばprofit(プロフィット)とgain(ゲイン)のふたつがある。profitというのは、人様や自然に喜びを与えることによって結果として得られる利益、gainというのは自分の代わりに誰かが損することによって得られる利益である。このふたつの違いをまったく理解していない経営者が多すぎる。gainの追求なら誰でもできる。profitの追求こそ経営者の使命である」というようなことを語っておられました。

私は、gainを「利己益(自分さえ良ければ相手のことは知ったことではないという自分勝手な利益)」、profitを「利他益(世の中の人に喜んでいただいた結果として入ってくる利益)」または「ご利益(ごりやく)」と解釈しています。

確かに、強引な値引き交渉(強要)がまかり通っている状況を見ると、駒井会長の指摘には、うなずけるものがあります。

この背景には、①短期的視野に立った安易な利益獲得志向、②「買ってあげている」(買う方が売る方よりも立場が上)という取引の基本を忘れた態度、③たくさん買うほど安くなるという生態系の再生能力を無視したコスト・価格体系などがあります。いずれも本来の経営目的からかけ離れていることが分かります。

皆さんにも、自社の経営目的を明確にし、企業経営を遂行するに際しての指針とされるようお薦めします。

これからの環境ビジネスの役割

◆本当のライフラインを再構築する

“ハードウエア・ソフトウエアからハートウエアへ”

これは以前から言われていることですが、生活者の選好基準が「物から情報へ、そして心の豊かさになる」ということです。この流れに乗るためには、本当のライフラインを再構築するような仕掛けが必要になるでしょう。

私は、この「本当のライフラインの再構築」こそが、これからのビジネスの基本になると考えています。もちろん環境だけではなく、福祉・いじめ・教育などSDGs関連項目においても同様です。

私は阪神淡路大震災で被災しましたが、水が1ヶ月出なくて大変不自由な経験をしました。そのときマスコミが「ライフラインが切れた」とさかんに報道していました。風水害が発生したときも、報道で「ライフラインが切れた」という表現が多く使われます。

私は被災地の中で、「ライフラインが切れたという表現はおかしい。今切れたのは、ガス管や水道管というパイプラインだ。電線とかいうケーブルラインだ。”本当のライフライン”というのは、人と人とのつながり、人と自然、それから自然同士などの”つながり”のことを言うはずだ。それが何で、物をライフラインと言ってしまっているのだろう」と疑問を抱いたのです。

実のところ、この疑問は私だけでなく、被災地に住む人も同じような思いに駆られていたことを後で知りました。

そして多くの人が、「いわゆる物としてのライフラインが切れたのではなく、その前に本当のライフラインが切れていたんだ。だから、本当のライフライン”をつなげて行かないと本質的な解決策にならない」という結論に達していたのです。

これは震災時のことなのですが、環境問題もいじめ問題も高齢者問題も同じことではないでしょうか。”本当のライフライン”をつなげていかないと(再構築しなければ)、表面的だけでは何も解決しないのです。

その意味で、本当のライフラインつまり「いのちのつながり」というキーワードを考えると、いじめ問題や高齢者問題だけでなく、貧困問題や飢餓対策や福祉や教育にも、さらにコロナなど病虫害の支援や対策にもつながるのです。「環境ビジネス」という言葉に囚われて、自分でビジネスの範囲を狭くしないようにしたいものです。

皆さんも「環境ビジネス」をサステナブル・ビジネス、つまり本当のライフラインを再構築するビジネス』とイメージしてみませんか。きっとSDGsなどの世の中に役立つアイデアと、それを具現化した商品やサービスが生まれるはずです。

“本当のライフライン”を構築することこそ、SDGsを達成するための必須条件ではないでしょうか。

次回は、「環境に優しい商品では価格競争に勝てない」という誤解について考えてみたいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二