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特別コラム 第12回「気候変動への対策がSDGsの達成にどのように結びつくか」

コラム

2021年3月31日

特別コラム 第12回「気候変動への対策がSDGsの達成にどのように結びつくか」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。

今回はその一環として、「気候変動への対策がSDGsの達成にどのように結びつくか」について、以前挙げた「地球温暖化(気候変動)が解決すると何が起こるか?」をベースに考えてみたいと思います。

「ひとつが悪くなると、やがてすべてが悪くなる」が、「ひとつが良く(善く)なると、やがてすべてが善くなる」。

これは前号でもかきましたが、SDGsだけでなく「つながり」の本質だと私は思います。

地球温暖化が解決すると・・・・こんなに良いことが起こる

従業員(もちろん学生も)に対して、「地球温暖化など環境が悪化するとこんな最悪な状況が発生する」という危機感から行動を促すことは大切なことです。

ただ一層の活動意欲を高めるためには、同時に「環境問題が解決すればこんなに良いことが起こる」ということを示すことも極めて重要です。

「自分たちが活動することで、例えば日常業務を通じて社会に貢献できる」という意欲が高まる人も多いからです。

自分たちが行動することで社会に貢献できる。働きがいを生み出し、良い意味での経済成長につながります。

以下に少々長くなりますが、「地球温暖化が解決すると・・・・こんなに良いことが起こる」ということを挙げてみます。

気候危機を訴えるだけでなく・・・・

地球温暖化(気候変動)を抑制することが、社会問題の解決につながり、生活者の社会貢献意欲を増大させる。

◆世界の自然災害が減少する

①熱帯低気圧の大型化にブレーキがかかる

気温の上昇が押さえられると、海水の表面温度の上昇を抑え、ひいては熱帯低気圧の発達に必要なエルギーも自然の変動範囲に収まる。

長期的に見ると、台風やハリケーンなど熱帯低気圧が巨大化する割合が小さくなる可能性が高まる。

また風力発電施設が猛烈な風で倒壊したり、波力発電施設が高波で破損するリスクが小さくなり、発電施設の建設費や維持費が削減できる。

②集中豪雨に対する不安が軽減される

上昇気流が弱くなるので雷雲が発達しにくくなる。

このため集中豪雨の発生が抑制され、降雨量も予想の範囲を超えることは少なくなる可能性がある。

現在でも集中豪雨が降ると土砂崩れなどに脅える地域があるが、温暖化が止まると、このような地域を最優先した防災対策を講じることができる。

③雪どけによる洪水を防ぐことができる

気温の上昇が押さえられると、雪どけのスピードが緩やかになり、洪水のリスクが低下する。同時に、正常な雪どけによって淡水資源が大地を潤す。
もちろん、温暖化が起こらなくても、巨大な熱帯低気圧や集中豪雨は発生するでしょう。しかし、その頻度は少なくなり、災害リスクが低減することは充分に予想できます。

災害リスクを減らすことで、長く(永く)住み続けられる「まちに」なります。

◆氷床や氷河の縮小をくい止めることができる

南極、アラスカ、グリーンランド、シベリア、アルプスなどの氷床や氷河が気温の上昇に伴い、急速に縮小している。

そのために洪水や淡水資源の減少のほかにも、永久凍土から温室効果ガスのメタンが発生したり、乾燥による樹木への被害が大きくなってきている。

また北極海の氷も大量に溶けていて、同海の塩分濃度が下がってきているため、地球の海流循環が変わる可能性があると指摘されている。

とくに「欧州周辺に大量の熱を含んでいる海水の循環が変わり、英国や北欧などは氷河期のように寒冷化する可能性があるとも言われている。

温室効果ガスの発生が抑制されると、氷床や氷河の縮小をくい止めることができる。

またこれは、英国や北欧の寒冷化に対する不安も軽減できることを意味している。

◆南極で氷の崩壊にブレーキがかかる

南極付近の気温が上昇しなければ、氷の崩壊にブレーキがかかる。

そうなれば、「南極棚氷の大規模な崩壊」の可能性が小さくなる。

このため、崩壊に伴う大規模な津波発生などへの不安が小さくなるばかりでなく、アラスカやグリーンランドなど陸氷の溶解にもブレーキが掛かり、(地球温暖化が起こらなければ本来必要としない)巨大で長大な防潮堤の建設など、沿岸部対策コストが低減できる。

◆生態系の破壊にブレーキがかかる

巨大隕石の衝突や大規模な火山の噴火などを除く自然変動の範囲内では、生態系は環境変化に充分対応できる。

英国リーズ大学のクリス・トーマス教授は、かなり以前から「2050年までに温暖化で絶滅の危機に追い込まれる生物種は100万種を超える」と指摘している。

地球温暖化がストップすることで、100万種以上の生物種が絶滅の危機を免れることになる。

また微生物やバクテリアの活躍が阻害されず、生きた土壌が復活する。

そこでは様々な樹木・草花・昆虫・鳥・動物などが豊かな多様性を持つ強固な生態系を作り上げる。

海でも陸でも豊かな生態系を守ります。

◆食糧生産の減少にブレーキがかかる

気温上昇や降水量の変化が小さくなると、乾燥や水害による影響や病虫害リスクが低減され、農地の生産性などが安定する。

中国をはじめとするアジア地域やアフリカでは、温暖化と同時に人口爆発も起こっていているが、農地の生産性が上がると、大規模な飢餓や難民問題が回避される可能性がある。

稲・麦・トウモロコシなどの作物は開花期の温度上昇に弱く、温暖化によって開花や花粉が減少すると予想されている。

また平均気温が2度上昇することにより、茶やコーヒーの生産量が急激に減少するとされている。これは、途上国にとって貴重な収入源が失われることを意味する。そしてこれらの作物の生産量を保つためには、森林地帯を開拓しなければならなくなる。

地球温暖化がストップすると、このような状況から抜け出すことができる。

貧困をなくし、飢餓もゼロに近づけることができます。

◆世界中で健康被害が改善される

WHO(世界保健機関)は、かなり前の2003年12月に、「世界中で起きる下痢症の2.4%、マラリアの2%は温暖化が原因とみられる」と報告している。

地球温暖化の進行を止めることで、マラリアやデング熱などの熱帯病が温帯地域に拡大するのを防ぐことができ、コレラ菌、サルモネラ菌、病原性大腸菌O-157などの食中毒菌の繁殖も抑えることができる。さらにまだ原因が明らかではない新型コロナウィルスのような感染症も、環境破壊を止めることで蔓延を阻止できるかも知れない。

さらに気温そのものの上昇を抑えることで、熱中症(熱けいれん・熱疲労・熱射病など)の発生増加にブレーキをかけることができる。

温暖化を緩和することで健康(長期的には福祉も)を良好に保ちます。

◆国際紛争のリスクが低減する

アメリカ国防省は、「地球温暖化の進行により、欧州にはアフリカから、米国には中南米から大量の環境難民が流入し、インド、中国、パキスタンなどでは水や食料資源をめぐる紛争が激化する危険性が高い」「EUや中国の不安定化のほか、エネルギー資源をめぐる日中間の緊張が高まる可能性がある」としている。

温暖化を解決することで、国際紛争をもたらす少なくとも一つの大きな要因が解消する可能性がある。

温暖化を防止することで国際紛争の一因を抑制します。

地球温暖化が止まると、 他の環境問題も解決に向かう!

温暖化(気候変動)は様々な発想の人達がパートナーシップを発揮することが必要です。

◆オゾン層破壊は?

南極で冬季に成層圏の温度が下がり、マイナス78℃以下になると極成層圏雲(PSC)ができやすくなる。この極成層圏は春先にオゾン層を破壊し、「オゾンホール」発生の原因になる。

最近は、北極やシベリアなどでも極成層圏雲ができ、オゾンホールに似たものが発生している。このままではオゾン層の回復が大幅に遅くなる可能性がある。

地球温暖化は、地表付近の気温を上昇させる一方で、成層圏(オゾン層付近)の温度を低下させる。

地球温暖化が止まると、温度の低下が緩やかになり、オゾン層破壊も軽減されること可能性が高まる。

◆森林破壊は?

熱帯林には熱帯の、また温帯林には温帯の気候条件が必要。樹木の多くは急速な温度上昇に対応できず枯死してしまう。

また、乾燥化が進み森林火災が発生しやすくなる。

これらは二酸化炭素の発生源になってしまう。

地球温暖化が止まると、森林破壊のスピードが減速することになり、上記のリスクが小さくなる可能性がある。

◆水資源の危機は?

温暖化が止まると、

1.干ばつの被害が減る、
2.河川の渇水が発生しにくくなる、
3.地下水の過剰な汲み上げが抑制される、
4.山岳氷河の縮小が止まるなど、淡水資源の減少に歯止めがかかる、

など、いいことがたくさんある。

また水温が高くなると、湖沼や河川の水質が悪化する。

これは水温が高いほど水に溶ける酸素(溶存酸素)が少なくなり、浄化能力が低下したり、酸欠になったりするため。

温暖化が止まると、水温上昇が抑えられ、水質の悪化(水質汚染)の一つの要因が緩和されることになる。

〈バーチャルウォーターについて〉

バーチャルウォーターとは、自国で農作物などの輸入品を生産した場合に、どのくらいの水量が必要になるかを推定したものです。

農作物を輸入した際に、その農作物が育つために要した水も輸入したことになるのです。

日本語では「仮想水」と呼ばれることもありますが、「実質上の水量」と解釈してくださいね。

農作物の生産国の多くが水(淡水)不足に苦しみ、安全な水が確保できない状況に陥っています。

温暖化を抑制することで、水資源の危機を回避することにつながります。

◆酸性雨は?

温暖化抑制策としての「省エネルギー」や「自然エネルギーへの移行」により、石油や石炭などの化石燃料の燃焼が抑えられる。

また、自動車やトラックから自転車や鉄道の移動手段の変更(モーダルシフト)により、ガソリンやディーゼル燃料の使用が抑制される。

これは、酸性雨の原因となる硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)の減少につながる。

それぞれの個人や企業が「作る責任と使う責任」を果たすことが必要です。そのためにはクリーンなエネルギー使った産業と技術革新の基盤をつくり、住み続けられるまちが不可欠です。

◆ゴミ・廃棄物問題は?

温暖化対策として「ゴミの削減策」がとられた場合は、二酸化炭素の発生が減少する。

温暖化を意識することで、結果としてゴミの削減につながる。

ただし、ゴミの削減は焼却によるものであってはならない。

ゴミを焼却(酸化処理)して減量できるのは、法律上の廃棄物であって、化学的には「質量保存の法則」により、酸素分だけ排出量は必ず増加する。

ゴミ・廃棄物の減量も地球温暖化防止(二酸化炭素の排出量削減も同時に実現させなければならない。

廃棄物処理法上の廃棄物は液体または固体。気体は廃棄物に当たらない。

その結果、硫黄酸化物や窒素酸化物による大気汚染や二酸化炭素による地球温暖化につながったことを忘れてはならない。

ゴミ・廃棄物問題を解決することは、住み続けられるまちづくりの大きな条件です。

ゴミ・廃棄物問題もひとりひとりが「作る責任と使う責任」を果たすことが重要です。当然、産業と技術革新の基盤の構築が不可欠です。

◆生物種の絶滅、食糧問題、飢餓問題は?

温暖化が止まれば、多くの生物種が絶滅の危機から脱し、遺伝子資源も守られる。
また穀物や水産資源が保たれる可能性が大きくなる。

さらに干ばつや砂漠化のリスクが減少する。

ひいては、アフリカやアジアの飢餓や環境難民の問題も解決に向かう。

生物種の絶滅、食糧問題、飢餓問題を解決することは、上に挙げたことだけでなく全ての課題(問題)につながっています。

このように温暖化の改善だけでも「かなりの問題が解決に向かう」ことが期待できます。

さらにSDGsはすべてがつながっている(関連し合っている)ので、それぞれの改善はすべての改善につながります。

最後に、これまで書いてきたことですが、とても大切なことですのであらためて書かせていただきます。

つながりの本質

つながりというのは、「一つ善くなれば、すべてが善くなり」「一つ悪くなれば、すべてが悪くなる」ことを意味します。ぜひこのことを意識してください。
その意味で、私たちにとって関係の無いことなどありません。

SDGsを紐づけるだけでは勿体ない

現在、SDGsを紐づけるだけで満足している人や会社が多すぎるような気がします。もちろん紐づけは大切な第一歩ですが、それだけでは勿体ない限りです。

SDGsはすべての人が関係しています。企業においても関係の濃淡はありますが、すべてに関係しています。

今のところ関係が無いと思っていたとしても「少し視点を変えるだけで大いに関係していることが見つかる」かもしれません。

そこに新たなビジネスチャンスがあるかも知れません。
一人や1社では難しくても、多くの人や企業が協力し合えば必ず見つかる。
そう信じてください。

今日のテーマは、様々な人のパートナーシップで課題を解決することが不可欠だと言うことを示しています。

単なる環境活動だけではなく、まさにSDGsへの貢献にとっても極めて重要な要素です。

次回からは、以前も少し取り上げた「環境経営についての誤解や思い込み」について、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二