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特別コラム 第9回「環境経営に取り組むと企業が成り立たない」

コラム

2020年12月24日

特別コラム 第9回「環境経営に取り組むと企業が成り立たない」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。
これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー講師を務めさせていただいておりました。
今回は、前号でも少し触れた「環境経営に取り組むと企業が成り立たない」について、さらに詳しく考えてみたいと思います。

まず、前号でも書いた重要なことをことを繰り返します。
みんなが言うから同調するのではなく、(本音で)思い込んでいると見えるはずのことが見えなくなる。
多くの人が経験していることだと思いますが、そのことを念頭に置いてお読みください。

「環境経営に取り組むと企業が成り立たない」という大きな思い込み

この種の思い込みも非常に多いのですが、「環境対策はコストがかかりすぎる」というのが代表的な意見です。
ただ実際に環境経営に取り組んだことのある人よりも、「誰かから聞いた」「成り立たないと思う」など推測からの意見が多いように感じます。
結論を先に述べると、「環境経営に取り組むと企業が成り立たない」ではなく、「これからは、環境経営に取り組まないと企業が成り立たなくなる」ということです。その理由を明らかにしていきたいと思います。

廃棄物を捨てることはお金を捨てること

では「環境対策はコストがかかりすぎる」という意見について考えてみましょう。
例えば「廃棄物を有効に使おう」と言うと、「廃棄物処理にお金が掛かる」という反論が返って来ることがあります。
ここで大切な事は、決済権のある人、買ってくれる人に「いま、あなたが捨てている廃棄物というのは、実はお金である」という現実をいかに伝えるかです。

学者さんに多いのですが、「廃棄物削減しようとすると、必ずコストがかかる」と言う方がおられます。
もちろん、多かれ少なかれコストが発生するのは当たり前です。
しかし、「コストがかかるということは、コストを受け取る側、つまり売る側が存在すること」を意味します。コストを支払う側から受け取る側に変わることができれば、廃棄物処理が利益の源泉になります。
廃棄物処理業は当然として、自社で培った廃棄物を削減するためのノウハウや管理ソフトウェアなどを商品化することも、立派な環境ビジネスといえます。

話を元に戻します。
例えば100万円で購入した資材を廃棄物と称して10%捨てたら、10万円というお金を捨てたことになります。
10万円捨てておいて、「その捨てたお金を減らすにはお金がかかる」という奇妙な話をしていることに気づきませんか。
多くの人は「廃棄物は汚いもの」と思い込んでいます。廃棄物と聞くと条件反射のように「なれの果ての姿」を思い浮かべます。

・・・・油まみれの錆びついた機械。ハエがたかり異臭を放つ生ゴミ。
しかし廃棄物になった時点では、汚いものでなく材料・素材そのものです。汚いものだとすると、汚いものを使って商品を作っていたことになります。
また生ゴミも、出来た直後というのはご馳走そのもの。私たちは汚いものを食べていたのではなく、ご馳走であり、栄養を食べていたはずです。

カレーはカレー、ケーキはケーキ、お肉はお肉。それがしばらく経って、腐敗しハエがたかる。
私たちは、このなれの果ての姿に生ゴミというレッテルを貼っているのです。
私たちが「ごちそうさま」と言った瞬間に、ご馳走が生ゴミという名前に変わる。
この矛盾を心で感じることが、廃棄物を減量し、ひいては環境経営を実のあるものにするためのスタートなのです。

捨てているお金をいかに減らすか?

以前、『PRTR』について講演したことがあり、その際に次のようなお話をしました。
ベンゼンやトルエンなどの有機溶剤を買ってきました。
そのうち、これだけ使いました。
そしてこれだけ回収しました。
でも、これだけどこかに消えてしまいました。
少々乱暴な表現ですが、これを登録して報告するのが『PRTR制度』です。

ある学者さんが某工業地帯の地図を示して、「赤く塗っているところは溶剤がたくさん揮発している所ですね。薄いところは少ないところです。それを減らすにはお金がかかりますね」というお話をされたのです。

確かにその通りなのですが、さらに重要なことがあります。
色が濃いところほど、捨てているお金が多いということです。お金を出して溶剤を買ったのですから当たり前ですね。

だから、「お金を捨てない方法」つまり「溶剤を捨てない(溶剤が漏れない)方法」を考えるべきなのです。「タンクや配管から溶剤が漏れない構造にする」、「溶剤そのものを使用しないプロセスに変更する」など、様々な対策を考えてみてください。

では、ガケから1万円札を落として、「落とした1万円札を回収するにはコストがかかる。明らかにコストが1万円を遙かに超えるので、回収しない方が得」という意見に対してはどうでしょうか。
いかにも正しそうですが、「1万円札に糸を結びつけておいて、万が一の時にも落ちないようにしておく(落ちても糸を手繰り寄せるだけ←コストは糸と針の費用と手間賃)」、「そもそもガケの上に1万円札を持って行かないと決めておく(コストはゼロ)」という予防策を講じておく方が遙かに効果的ですね。

もう一例。
「こぼれたコーヒーをフキンで拭くのとティッシュで拭くのとでは、どちらが環境負荷が小さいか」という議論についてはどうでしょうか。
科学的には、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の研究でフキンで拭く方が環境負荷が小さいことが分かっています。しかし学者さんならそれでいいのかも知れませんが、企業人としては合格点はもらえません。
こぼれたコーヒーをどうするかではなく、コーヒーがこぼれないように工夫することが大切だからです。

どうすれば、こぼれないのか?
こぼれたとしても、例えば水だとしたら・・・・。
もし水もコーヒーも必要でなければ・・・・。

実は『LCA』というのは、こういう発想を進めていく際に役立てるべきものなのです。
ところが今は、「AかBかどちらかを決める手段」になっている場合が多いようです。

企業人としては、専門用語の知識を詰め込むよりも、「いかに捨てているお金を減らすか」という知恵を絞る方が重要です。廃棄物にしても削りカスにしても、買ってきた素材の一部なのですから、元々はお金なのです。
この素材をどういうふうに使い切ったら(活かし尽くしたら)良いかを考えるのです。
もっと言えば、素材を自分の子供さんだと想像してみることです。
恐らく、「最後まで使い切ってあげたい」、「すべての能力を活かしてやりたい」と思うはずです。すると、そのうち「従来と違う切り方をしたら材料全部が使える」などの発想が出てくると思います。

具体例として、私が以前に実施したことをご紹介します(数字そのものは、分かりやすいように変えています)。

<具体例1>切断方法を変えるだけで大幅な利益増を実現!

従来は、直径10cm、長さ1mのステンレスの丸棒を10cmずつ切断していました。すると10個取れる・・・・はずはないですね。
100÷10=10。数字的には10なのですが、切りしろがあるので9個しか取れなくて8cmの廃棄物が出ていました。この廃棄物はお金を支払って処理業者に処分してもらっていました。
この現状に疑問を持ったある人が「10cmでなくても、9.8cmで良いのじゃないか」と考えたのです。

とはいうものの、強度が弱くなったり、他の部品に影響を及ぼすとしたら困ります。いきなり変更するわけにはいきませんが、調査した結果、強度も弱くならないし他の部品への影響もなかったのです。
そこで10cmから9.8cmに変えたら10個きっちり取れたのです。廃棄物はわずか2mmでした。0.2cm。廃棄物量が何と40分の1になったのです。
これをどうして、「環境を保護するとお金がかかる(コストが増える)」と言うのでしょうか。
もちろんお金がかかることも多いのですが、「すべてが該当するとは限らない」のです。

同じ値段で買ってきた物ですから、製造単価が安くなります。
9個が10個になったのですから、1個分売上が増えます。
同じ個数をつくる場合、素材の購入量が少なてすみ仕入れコストが下がります。しかも廃棄物処理コストが著しく削減できます。
トータルで見ると、明らかに利益増ですね。

よく経営者の方から「環境に取り組んで、いくら儲かるのか?」という質問を受けます。
もちろん、企業経営には様々な要素が関連しあっているので、「いくら儲かるか」を即答することはできません。
この場合、私は次のように応えます。
「社長さん、いくら儲かるかは即答できませんが、いくら損しているかはすぐに分かります。いまゴミや廃棄物として捨てているのは、お金を出して買った物の一部ですから、明らかにお金ですね。廃棄物と称してお金をジャンジャン捨てておいて、利益が少ないというのは虫が良すぎますよ。
厳しい言い方かも知れませんが、お金を捨てているところにはお金は寄りつきません。お金は寂しがり屋です。お金は大切にしてくれるところに集まってくるのです。社長さん、いつまでお金を捨て続けるのですか?」と。
これは私自身への戒めを込めて、講演会などでよく話題にしています。

すると、「そういえば、先代社長がそう仰っていたなあ」、
「忘れていました。これこそが当社の創業時の精神でした」、
「廃棄物って捨てたお金。お金を捨てておいて、捨てたお金に廃棄物処理費用としてお金がかかる。まさにブラックユーモアですね」などの感想が出てきます。
一人でも多くの企業人が、「廃棄物という名のお金を捨てている現状」に気づくことを願っています。
この話は、お客様とエコプロダクツの商談をするときにも応用できます。
お客様に提案やアドバイスをするときに、「汚い物をどう処理するか」という発想よりも「お金を捨てないためには、こうしたら良い」という働きかけのほうが喜ばれるのではないかと思います。

<具体例2>光熱費と売上高との関係を知り、省エネ意識が向上!

◆あなたの会社の「売上高対純利益比率」は?
電気代やガス代などの光熱費は現金で支払われます。会計上は一般管理費ですが、実態は純利益(現金)から出ていきます。
さて、ここで質問です。
あなたの会社では光熱費を支払うための現金を生み出すために、売上をどのくらい上げないといけないでしょうか?
売上高に対する純利益、つまり「売上高対純利益率」です。
仮に100:1(1%)として考えてみましょう。
この場合、「1万円の純利益を得るために100万円の商品を売らないといけない」ことになります。
営業マンに「営業部門として電気代などの光熱費を1万円削減しなさい」と指示したとき、「自分たち営業マンは100万円単位の仕事をしているのに、たかが1万円くらいでギャーギャー言うな」と言い返されたとしたら、あなたはどう対応しますか?

もうお分かりのように、営業マンの理屈はメチャクチャですね。
まずは、「光熱費としての1万円は純利益(現金)から出ている」こと、そして「あなたが必死になって獲得した100万円の売り上げが、1万円の光熱費の無駄遣いで吹き飛んでしまうんだよ」と営業マンに伝えてください。
すると、「自分がせっかく100万円の売上を上げているのに、そんな事で利益が減るなんてバカバカしい」と思うはずです。「100万円の商品を売るのに、自分がどれほど苦労しているか分かっている」からです。
純利益1万円と売上100万円が、実は同等の価値がある。
これはほんの一例ですが、私たちが普段当たり前に思っていることを少し見直すだけで、いわゆるビジネスチャンスだけではなく企業の経費も削減できるのです。
さらに良いことに、社会から「さすがエコ商品を扱っている会社だけに、地球に優しいですね」と賞賛されるようになるかも知れません。
少なくとも、「お宅の会社は地球に優しいと口で言うだけで、環境配慮がメチャクチャですね」、「環境のこと考えていないですね」と指摘されないようにしたいものですね。

環境経営に取り組むメリット

環境経営に取り組む際に立ちはだかる「企業が成り立たなくなる」という障壁に対して、ここまでいくつかの例を挙げて反証を試みてきました。
もちろん「必ず」とは断言できませんが、環境経営への取り組みは利益増につながる大きなチャンスなのです。しかも利益増だけにとどまらず、企業経営にとって多くのメリットをもたらします。

ここでは、代表的なメリットについてまとめておきましょう。
環境経営に取り組むことで「企業にもたらされるメリット」としては、以下のようなものがあります。

1.経費節減効果
2.新商品、新サービス(創造性)開発効果
3.信用アップ効果
4.従業員の使命感と社会貢献意識の醸成効果

それぞれについて、事例を交えながら説明しましょう。

1.経費節減効果

経費節減は、企業が利益を確保するための重要ポイントです。
たいていの企業では、当然のように「休み時間には蛍光灯を消そう」、「コピー用紙はFSCの森林認証を受けた再生紙とし、できるだけ裏表を使おう」、「工程の無駄を省こう」というような、経費の節減策が以前から実施されています。
このような経費節減策そのものが、エネルギーや資源の節約につながり、地球環境問題の解決に貢献することは今さら言うまでもないでしょう。

しかし残念なことに多くの場合、これらの経費節減効果は自社利益に対する貢献としてだけ報告されているようです。
前回も書きましたが、従業員に対して、「経費が1000万円節減されたので、当社の経常利益が1億円になった」というような報告しかしていないとすれば、もったいない限りです。
ましてや、経営者が「常にお金儲けのことしか頭にない人」と従業員に思われていたとすると、「うちの社長は本当にケチだからねえ」と陰で言われかねません。

そこで、平素から地球環境問題について従業員にどんどん報告し、「地球環境問題は誰かが解決してくれるという消極的な考えではダメだ。たとえ、少しの経費節減であったとしてもその積み重ねが大きな力となる。まずは、わが社から始めようではないか」と熱く(温かく)語るのです。
この時、先の報告に加えて例えば「エネルギーや資源の節約によって経費が1000万円浮いたということは、地球環境に対して1000万円もの貢献をしたということだよ。つまりこの1000万円は地球からの報酬なんだ」といえば、「よし、地球のためにもっと知恵をしぼろう!」という意欲が出てくる可能性が十分あります。
そして使命感を共有した従業員から、自発的にどんどん経費節減のアイデアが出てくるようになるでしょう。例えば、次のようなアイデアです。

<事例1>
工場の蛍光灯一つひとつにスイッチをつけて、必要な分だけ点灯するようにしたらエネルギーも経費も大幅に節減できた。
これは今では多くの職場で当たり前に実施されていることですが、以前は「職場が暗くなる」とか「作業効率が落ちる」というクレームが出ていました。
経費節減のためだけで指示を出していたからです。しかし、「環境改善に貢献する」とか「地球から報酬をいただく」という意識が芽生えると、このような改善案は指示しなくても従業員から出てくるものです。

<事例2>
2つの商品で長さ100cmのステンレス棒を60cmずつ使用していたので、それぞれ40cm、計80cmの廃材が出ていた。どちらの商品も50cmでも問題ないことが分かったので、10cmの棒を2等分して使うことにした。
その結果、ステンレス棒の使用量が半分になり、しかも廃棄物がほとんど0になった。
数字は少し誇張していますが、この事例に近いことはかなり行われています。
問題は「設計者間で情報交換が行われていなかった」ことにあります。
商品ごとに材料使用量や廃棄物量の削減を図ることは当然ですが、商品群さらには取り扱い商品全体としても考慮する必要があります。
環境経営においても、コミュニケーションの円滑化は大きな課題と言えるでしょう。

<事例3>
ある企業には歯車が1000種類もあった。しかも部品図が数万枚もあり、現場に混乱を来していた。調べてみると、寸法とか歯数とかほんの少しずつ違う図面が多かった。整理したところ、たったの5種類に集約できることが分かった。部品図の管理がルーズなので、設計者によると「図面がどこにあるか分からなかったので、自分で最初から設計した」という。

そのために、図面を探す時間ロス・図面を書く時間ロスはもちろん、紙資源のムダ、歯車製作の際の段取り替え時間ロス、材料ロスなど、どんどんお金が消えてしまっていた。
部品図の管理を徹底するとともに、「部長の決裁がない限り新規部品の追加を認めないことにする」という規定を設けただけで、大幅な経営資源の節約を実現した。

これはある大手企業での実例をシンプルに表現したものです。実は、このことが原因で倒産に至ったそうです。いわゆる「図面倒産」です。しかし、この事例のような規定を設けることで(もちろん他の対策も功を奏し)業績が回復したのです。
最近、サーキュラーエコノミーで「無駄を活用する」と言われていますが、それは当然です。
ただ新製品を作る場合は、「無駄を当初から発生させないようにする」という「もったいない」発想を企画の段階から組み込んでおくことが大切です。

環境経営の基本も「整理整頓」

整理(Seiri)・整頓(Seiton)に清掃(Seiso)・清潔(Seiketsu)・しつけ(Shitsuke)を加えた活動を5Sいい、一般に次のような意味に使われています。

・整 理:必要な物と不要な物を分け、不要な物を処分する。
・整 頓:必要な物を必要なときに取り出し使える状態にする。
・清 掃:ゴミなし汚れなしの状態にする。
・清 潔:ゴミなし汚れなしの状態を保つ。
・しつけ:決められたことを守る習慣をつけるよう指導し訓練する。

5Sは「職場環境」を改善するためのスローガンですが、実は「環境経営」を進めるに当たっても効果的な姿勢でもあるのです。「職場環境の改善」が「地球環境の改善」にもつながるというわけです。

上の一般例を環境経営の観点で表現すると次のようになります。

・整 理:
分別を徹底し、必要な物を有効に使い、本当に不要な物を適正処分する。

・整 頓:
必要な物を必要なときに必要な分だけ取り出せるようにしておく。

・清 掃:
ゴミが出たときには取り除く(ただし極力ゴミが出ないように意識する)。

・清 潔:
ゴミがない状態を維持する。

・しつけ:
決められたことを守る習慣をつけるよう指導し訓練する。

これらは、当たり前といえば当たり前なことばかりですが、まだまだ十分とは言えない企業が多いのではないでしょうか。

そもそも「何が必要で、何が必要でないか」の基準が明確でなければ、絵に描いた餅になることは間違いありません。ある企業では「半年間使わなかった物はゴミとして処分する(たいていの場合は廃棄する)」と決めているそうです。

もちろん、その前提として

「購入前に本当に必要なものなのかを考慮する」「(処理費用や面倒くささなど)捨てるときのことを考えて購入する」「ゴミを捨てるのはお金を捨てることと認識する」

などが不可欠であることは言うまでもありません。

また、「出たゴミを取り除くのではなく、ゴミが出ないようにする」には、「ゴミは汚いものではなく資源を有効活用し損なったもの」と捉えることも大切です。

分別の意味

ゴミの分別を促すために「混ぜればゴミ、分ければ資源」というスローガンがよく使われています。

しかしこれは、「もともと資源だったものを混ぜたらゴミになり、混ざり合ったものを分ければ資源になる」という意味ではありません。

実は、「最初から混ぜなければ、ずっと資源」であり、「混ぜればゴミ、混ぜなければ資源のまま」と考えるべきでしょう。

ゴミ箱の中に新聞紙とプラスチック類とを一緒に捨てておいて、後で別々に分ける。

これでは時間と労力がかかります。だったら「最初から混ぜなければいい」のです。

つまり、「分別」とは、混ざってしまった後で選り分けるのではなく、
「最初から混ざらないように工夫しておくこと」
なのです。

これも当たり前のようでいて、ゴミ出しの直前にあわてて分別している光景をよく目にします。

ゴミ・廃棄物は資源

環境経営を実のあるものにするには、「ほとんどの廃棄物やゴミは資源」と信じることが不可欠です。

これも、もはや当たり前のことになってきましたが、そう信じている人でも「ゴミの一部が資源」と表現することが多いようです。
しかし、実は順番が逆で「資源の一部がゴミになる」のです。

言い方を変えると、ゴミとは、「資源を使い切ろうと努力したものの、どうしても残ってしまった部分で、しかも分別せずに散らかってしまったもの」です。

山や森林地帯の落ち葉が「肥料や腐葉土」という素晴らしい資源になるのに、都会の公園や道路に落ちた枯れ葉がどうして「ゴミ」といわれるのでしょうか。

なぜ工場内のプラスチック類やビン・カンは「資材」といわれ、路上や川底のそれらは「ゴミ」と呼ばれるのでしょうか。

ゴミとは、「本来の居場所とは違うところに散らばった資源」。
このような視点を持つことが「環境経営」には不可欠です。

<事例4>
長さ100cmのパイプを20cm切断し、80cm分をある装置内に使っていた。
現在の担当者が、「装置は十分のスペースがあるにも関わらず、せっかくJIS規格に準拠している定尺品をわざわざ切断している」ことに疑問をいだき、その理由を調べてみることにした。

しかし、「以前からそうしてきたから」という納得しがたい理由が相次いだので、すでに引退していた設計者を訪問し訪ねてみた。

すると、「初期の装置は小型だったので、定尺品だと入らなかったので仕方なく切断して使った」ということが判明した。すぐに設計変更し定尺品を使うことにすると、切断工程が不要になり加工時間の短縮が図れただけでなく、廃棄物量を大幅に削減することができた。

この成果により会社から表彰され、ますますヤル気を起こした担当者は、「いっそのこと1ランク短い定尺品(例えば70cm)を使えないか」と考え、現在の処理能力を維持したままで初期よりもさらに小型化した装置を実現させた。
当然、装置に使用する資材・資源量と装置そのものの運転時のエネルギーが大幅に削減できた。

よく似た例で、「ローストビーフを蒸し焼きにするときになぜミミ(カットエンド)を落としていたのかと調べたら、一番最初はオーブンが小さすぎて入らなかったから」という話があります。

「ホントの話かな?」と思ってしまうくらいの笑い話(もはや昔話)ですが、このようなことは案外多く見受けられます。「以前からしていたから」とか「当たり前だと思っていた」ことが、この種の問題の発見を遅らせてしまうようです。

ところで、この事例のように規格品や標準品を使うと、安い価格で購入することができます。しかも加工プロセスがその分不要となり、当然ですが、人・物・金という経営資源の節約に直結します。これはとても価値あることだと思います。

しかし、この事例の重要なポイントは「1つの成功体験がヤル気を呼び起こし、さらなる改善や改革の呼び水になる可能性がある」ということです。

前半の事例に対して、「80cmから100cmになって、結局は資材の使用量が増えているじゃないか。これでは、環境負荷という観点では改善とは言えない」とクレームをつける人も出てくるでしょう。

現実に、あるリサイクル活動だけを見て、「これは環境負荷を増加させるので無意味だ」と断言する学者さんもおられます。

しかし経営はある一点だけでなく、総合的に見なければなりません。
事実だからと言って「従業員のヤル気をそぐようなこと」をしてはいけません。

それよりも、まずは効果を上げたことを認めて評価し、さらなる改善・改革意欲をかき立てる配慮が不可欠です。

やはり、経営の原点は「良好な人間関係」にあるのです。

2.新商品、新サービス(創造性)開発効果

いま、どの企業も懸命に新商品や新サービスを開発し、市場で優位に立とうとしています。そのためには、従業員の創造力を活性化することが不可欠です。どこの企業でも「異業種と交流しよう」とか「違った視点でものを見よう」というスローガンが呪文のように唱えられています。

そこで、経営者自ら異業種交流会に参加したり、従業員を経営戦略や潜在能力開発セミナーに派遣したりと大変な努力を払っているようです。

そのための費用は、決して安いとはいえません。

実は「環境配慮活動」そのものが(最近ではSDGs活動そのものが)、余りお金をかけずに創造力を向上させる「創造力活性化トレーニング」なのです。

環境配慮のために知恵を産み出すプロセスには、「異業種的な発想」と「現在の市場に対する見方とは違った視点」のどちらも必要です。さらに全体を見る鳥瞰力や論理的なシステム思考力も必要です。

つまり前項の事例(特に<事例4>)に見られるように、環境配慮活動やSDGs活動に取り組むこと自体が、創造性開発、ひいては新製品や新サービスが生まれる源泉となり得るのです。

環境への取り組みは、もちろん企業だけではなく、子どもたちの創造力開発にも役立ちます。ぜひともお試しください。

3.信用アップ効果

環境問題の解決に積極的に取り組んでいる企業を応援しようという人(緑の生活者=グリーンコンシューマー)が確実に増えています。

グリーンコンシューマーから見て、目先の利益にとらわれずに、未来の世代に美しい地球環境と天然資源を残そうとする企業は大変魅力的な存在です。

一方、一般の消費者にしても、環境を無視して私利私欲に走る企業よりも地球に優しい企業の方が信用度が高いと判断するのではないでしょうか。

今後は、環境経営に取り組む企業が今以上に信用度を高めていくことは間違いないでしょう。

反対に言えば、環境経営に取り組まない企業は、信用度が低下し、やがて淘汰されることになるでしょう。

最近注目を集めているESG経営の評価を左右するのは当然です。

4.従業員の使命感と社会貢献意識の醸成効果

人間は「自分は企業の1つの歯車にすぎない」と考えるよりも、「自分の仕事が世の中に役立っている」と自覚する方が働きがいを感じるものです。

環境問題を真剣に考える経営者の使命感が社員に伝わることで「よし、精一杯社会に貢献しよう!」という意欲と生きがいが彼らに湧いてくるでしょう。

そして資源の節約(=地球環境の保護)などによって、「仕事を通じて地球環境問題の解決に貢献できる」。

なんて素晴らしいことでしょう。

このことが自ずから良い結果につながり、それが一層の使命感と社会貢献意欲をかき立て、さらに業績がアップするという善循環に発展するのです。

電気・ガス・水道・原材料などの経費を節減できた分だけ、実は地球環境の改善に直接貢献しているということを先に述べました。

「環境問題の解決に貢献するのは、何も新サービスや新商品の開発だけではない」ということを改めて強調しておきたいと思います。

廃棄物削減は企業人の責任

前にも述べましたが、私たちは「廃棄物を捨てていたのではなく、資源すなわちお金を捨てている」ということに気づく必要があります。

廃棄物という言葉を使えば、捨てることを正当化してしまいます。

しかし、お金を捨てているという観点に立てば、「もったいない、できるだけ有効に使おう」という発想になるのではないでしょうか。

もっと端的に言えば「地球環境を守るため(だけ)に廃棄物を削減する」のではなく

「捨てる物をできるだけ少なくする、つまりお金を無駄にしないのは経営者ひいては企業人の重要な責任」

なのです。

これらの事例は、以前から品質管理などで当たり前に取り組んでいた実践活動に他なりません。

しかし、これが「地球環境保全のために大いに役立つ」ということを従業員に徹底できている企業は少ないようです。

経費の節減は、会社の中にいながら(仕事をしながら)地球環境に貢献できるとてもポジティブな活動です。

そのためには、「経営者の使命感をいかにして従業員に伝達するか」が最大のポイントになるでしょう。

乾いた雑巾を絞る

いわゆる識者の中には、「日本の企業は、省エネルギー・省資源対策に関して”乾いた雑巾状態”なっているので、これ以上の削減は困難だ」という人がおられます。

「日本は温暖化対策で”乾いた雑巾状態”だから、これ以上望まれてもそう簡単にはいかない」というようなことを仰った政府関係者もおられます。

確かにオイルショック以来、日本企業では省エネルギー・省資源化が進み、非常に効率的な生産システムを創り上げてきました。

これは堂々と世界に誇れる快挙です。

しかし、本当にこれ以上は無理なのでしょうか。

本来、「乾いた雑巾を絞る」というのは
「乾いたように見える雑巾であっても絞れば多少の水が出るように、合理化もやり尽くしたように見えても諦めてはいけないのだ」
という意味です。

「乾いた雑巾だから無理」ではなく、「乾いた雑巾に見えるが、まだまだチャレンジする価値がある」ということです。

前者(乾いた雑巾だから無理)の立場をとる人は、省エネルギー・省資源を「節約」という観点に偏って捉えがちです。もちろんこの姿勢は大切なことですが、やがて行き詰まることが多いようです。

一方、後者(乾いた雑巾に見えるが、まだまだチャレンジする価値がある)の場合は、例えば以下のような発想を総動員して対処します。

●濡れた状態にも程度があると認識する。
→雑巾の水分量を減らす方法を考える
→元々の水分量を減らすことを考える
→元々のエネルギー使用量・資源使用量を削減する。
●雑巾の数を減らす。
●雑巾より有効な代替物を探す。
●雑巾も代替物も使わずにすむ方法を考える。
●製造プロセスを見直す。
●製造プロセスそのものを変更する。
●そもそも、その部品・商品は必要なのかを検討する。
●その部品・商品がなくても同じ機能を発揮させる方法はないかを考える。
●その部品・商品を廃止する。
●個々の企業だけでなく、業界全体(場合によっては世界全体で)で部品や 商品を統一化することを提案する。

このように様々な可能性があります。

乾いた雑巾を「だからこれ以上無理」と自ら限界を設けてしまうのか、その限界を外して上記のような創造性を発揮するのか、どちらが企業にとって重要かは明らかですね。

世の中の常識や識者のご高説に囚われることなく、対症療法だけにとどまらない根本療法を心がけていただきたいと思います。

SDGsに関心を持たない人を差別しない

余談かとは思いますが、最後に当たり前のことを念のために付記します。

最近、CMやテレビドラマでもSDGsが取り上げられ、流行語のようになってきました。もちろん歓迎すべきことではあります。

しかし、SDGsに関心のない人や、反対の人もおられます。

これからは「多様性を認め合う」社会ですから、そんな人たちを排除したり無視したりすることのないように心がけたいですね。

差別のない社会を作ろうとしているのに、それに反する行為は避けないといけません。

SDGs活動を行っている人には、そんな人はいないとは思いますが・・・・。

もし、知人にSDGsに関心のない人や反対の人がおられたら、「どうして関心がないのか」、「どの部分が反対なのか」、「自分ならどうしたいのか」などをよく聞き、じっくり話し合ってください。

このようなコミュニケーション努力が、違いを認め合い、活かし合い、「誰一人とり残さない」社会を構築し、「パートナーシップを強化する」ための要諦なのではないでしょうか。

次回は、SDGsでも大きな関心事になっている「海洋プラスチック」について考えてみたいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二