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特別コラム 第6回「CSVビジネス」

コラム

2020年10月1日

特別コラム 第6回「CSVビジネス」

こんにちは。ATC環境アドバイザーの立山裕二です。
これまでエコプラザカレッジで環境経営やSDGsなどについてセミナー
講師を務めさせていただいておりました。

今回は、「CSVビジネス」について考えたいと思います。

CSVビジネスについては、人によって解釈が異なります。このままでは組織内のコミュニケーションが円滑に進まず、業績そのものに悪影響をもたらしかねません。
そこで「原点に戻って考える必要がある」と感じ、提唱者の意図したCSVを取り上げることにしました。

しかしCSVそのものは法律や国際条約になっている訳ではありません。
従って、どのような解釈でも構わないのですが、少なくとも社内では意思統一しておくべきではないでしょうか。

CSVとは?

CSV (共通価値の創造)は、2011年にハーバードビジネススクール教授のマイケル・E・ポーター氏とマーク・R・クラマー研究員が提唱した競争戦略論です。
社会的な課題の解決と企業の競争力向上を同時に実現させることを目的としています。

マイケルポーターのいう戦略とは?

strategy(ストラテジー)を一般に戦略と訳していますが、本来は攻撃・攻略対象などの敵対者の存在は前提となっていません。「戦争における術や策を指す」場合は、一般にmilitary strategy(ミリタリー・ストラテジー)といいます。
ストラテジーとは「特定の目的に対する枠組みや方向性」を意味し、正確には「方策」のことです。
その意味で、ここではストラテジーを「戦略」と訳さず、そのまま「ストラテジー」を使っています。

マイケルポーターのいうストラテジーとは?

競争から身を守るための防御手段であり、好業績を持続的にもたらす優れた競争方策のことで、「競争にさらされた組織がいかにして卓越した業績を達成するのか」を説明しています。つまり、「どのような価値を創造するのか?」、そして「その価値のどれだけを、どのような方法で獲得するのか?」を説明しています。

マイケルポーターのいう競争とは?

競争に勝つには「最高を目指す」のが一番という人が多いのですが、「これは自己破壊的で、底辺に向かうゼロサム競争をあおりかねない。組織は独自性を目指して競い合うことでこそ、卓越した業績を持続させることができる」としています。
ストラテジー的競争とは「他社と異なる道筋を選ぶことであり、複数の勝者と多くの活躍の場を作るプラスサム競争のことである。
企業は最高を目指して競争する代わりに、独自性を目指して競争すべきである。競争の本質は、競合他社を打ち負かすことではなく価値を創造することにある」としています。

マイケルポーターのいう競争優位とは?

一般には「競合他社を負かすために使われる武器と理解されているが、つきつめれば価値創造に関わる問題であり、それを競合他社とは異なるやり方で行うことである。他者と異なるバリューチェーンをいかに構築し、業界平均を上回る業績を確保するかということに尽きる」としています。
つまり「組織が競争に勝てるかどうかは、独自の価値を売り出せるかどうかにかかっていて、1位を目指すのではなく、ユニークな存在になれ」と諭しています。

価値創造とトレードオフの重要性

価値創造とは、組織がインプット(投入物)をモノやサービスに変え、インプットの総和を超える価値を生みだすプロセスをいい、卓越した業績をもたらす源泉です。
ポーター氏は、「独自の価値提案が有効な戦略となり得るのは、それを実現するための最良の活動の組み合わせが、競合他社の行う活動と異なる独自の提案に限られる。競争優位は競合他社と違う方法で活動を行うか、競合他社とは違う活動を行うという選択から生まれる」としています。
またトレードオフは選択肢が両立しないときに生じるもので、競合他社との価格やコストの差を生みだす重要な源泉になります。
そしてその理由として、「トレードオフが存在するとき、競合他社に戦略を模倣されにくい。なぜなら他社はそれを模倣することで、自らの戦略を損なうことになるから」を挙げています。

私の考えるCSVの深意とは?

以上を踏まえ、私はCSVを次のように考えています。
複数の社会的な課題の解決と企業の競争力の向上を他社とは異なる方法によって、また他社とは異なるバリューチェーンを構築して、同時に実現させることである。
本業とはいえ、既存の商品やサービスに他社が模倣できない何かを加えることが必要。
ここでいう競争力とは、誰かが得すると誰かが損するという「ゼロサム競争」ではなく、たとえば顧客と売り手の双方に利益がある(双方が勝つ)という「プラスサム」をもたらす競争力のことである。

ポーター氏の提案

ポーター氏は環境経営についても造詣が深く、社会に対しても提案を行っています。
2つほどご紹介します。

1つは「ポーター仮説」と言われるものです。
企業による環境汚染は経済的浪費の一形態である場合が多い、というものです。
そして「経済的浪費とは」、資源の非効率的利用、エネルギーの浪費、貴重な原材料の廃棄などであり、環境パフォーマンスの改善は生産性の向上につながることが多く、時には改善に要したコスト以上のメリットが得られることもある」としています。

これを【ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー2011年6月号】に発表しています。
一方、CSVはハーバード・ビジネス・レビュー2011年1月・2月合併号で発表していて、ポーター仮説がCSVにも反映されていることが推察されます。

2つ目は、「イノベーション・オフセット仮説」と言われるものです。
初期投資費用はイノベーションを誘発するような規制によって相殺できる、というものです。

1 適正に設計された環境規制は、他国よりも、先んじて法制化されれば、他国の競合企業よりも間違いなく利益をもたらす。

2 手ぬるい環境規制よりも厳格な環境規制の方がイノベーションを誘発する。

3 厳格な環境規制は資源生産性の向上を促し、省エネ、省資源による利益を生み出す。それは次の2つのオフセットを可能にする。

プロダクト・オフセット
より高性能、高品質、安全性、リサイクル容易な製品の開発を促進すること。

プロセス・オフセット
生産過程で汚染を軽減させる工夫することで、資源生産性の向上を促し、省エネ、省資源による利益を生み出すこと。
何れにしても厳しい規制が企業にイノベーションを起こし、企業成長の原動力になる、としています。

以上、CSVについて「社内で解釈が異なる可能性があることを前提にして」話を進めてきました。
CSVを題材にして社内で(もちろん協力企業間でも)話し合い、コミュニケーションの円滑化を図ることをおすすめします。

次回は「ビジネスとSDGsの関係」について例を挙げて考えてみたいと思います。

コラム著者

サステナ・ハース代表、おおさかATCグリーンエコプラザ環境アドバイザー

立山 裕二