背もたれに広告のついたプラスチックベンチがエクステリア開発の原点
――御社はどのような事業を展開されているのでしょうか?
村田さん:当社は、昭和30年に東京都墨田区で設立し、工業用ゴム製品の販売から始まりました。高度成長期に入ってくると、プラスチックの需要が増え、大手メーカーのプラスチック製品の販売も行っていましたが、その中のデッキ材が、公園などのベンチに応用できないかと開発したのが「プラスチックベンチ」です。当時の公園や観光地に、背もたれのところに広告が印刷された広告ベンチは、全国各地でお使いいただいていました。
競技場やスタジアム用の「スタンドベンチ」は、1972年札幌冬季オリンピックの開会式場となった真駒内屋外競技場に採用されたのを皮切りに、旧国立競技場や秩父宮ラグビー場など、数多くの施設に採用していただいています。
こうした公園や公共施設のベンチの開発・販売を足がかりに、現在では公園や学校、商業施設など公共のオープンスペースに設置する様々なエクステリアを企画から製造、販売まで行っております。
――持続可能な社会に向けてどのような取り組みをされているのでしょうか?
中村さん:当社は創業者の時代から「総ての快適環境の創造に貢献する=All Open space=」を社是として、企業活動に取り組んできました。製品づくりは、安心・安全を第一にしつつも、50年以上前から間伐材を使用するなど「ひとにやさしい」、「地球環境に配慮」、「循環型社会の形成」を念頭に製品開発を行ってきました。
2015年に国連で採択されたSDGsは、私どもが長年取り組んできた課題と親和性があります。そこで、これまでの取り組みを17のゴールに紐づけて、テーマを設定し、当社の取り組みを体系化したのが下の図になります。
ナカムラの持続可能な社会への取り組み
だれもが快適に過ごせるユニバーサルエクステリアの普及に貢献
――第1のテーマに「ひとにやさしい製品づくり」とありますが、どのような考え方のもとに、どのような製品が作られているのでしょうか?
中村さん:ひとにやさしい製品づくりは、当社の中で最も大切にしているテーマの一つであり、数十年前から取り組んできたことでもあります。以前は身体に障がいのある方や高齢者に配慮した「バリアフリー」デザインが主流でした。しかし、近年さらに属性を広げて、精神疾患のある方や、性別、体格、言語、文化などが異なる不特定多数の方にご利用いただくことを前提としたユニバーサルデザインの需要が増えてきています。
このユニバーサルデザインを施した遊具が日本で最初に導入されたのは1994年、昭和記念公園でした。この時、当社が設置工事を請け負いましたが、30年近く前から誰もが快適に過ごせるインクルーシブなエクステリアづくりを進めてきました。
――具体的に、ユニバーサルエクステリアにはどのような製品がありますか?
中村さん:ユニバーサルエクステリアは、遊具からテーブル、ベンチ、トイレや健康器具など、さまざまな製品に展開しています。
その中からいくつか紹介しますと、トットビルダー インクルーシブモデルという遊具は、ゆるやかなスロープや車いすから乗り移り易い工夫をしているため、車いす使用の子どもも遊具までたどりいくことがきます。またすべり台の色や素材も熱を吸収しにくく、静電気の起こりにくいものとしています。
また、UDピクニックテーブルは、テーブルの天板といすの座面をR形状に加工し、車いすでも、テーブルやいすのコーナーを気にせず、楽な姿勢で立ち座りができるように設計しています。ベビーカーでのアクセスもしやすく、さまざまな立場の人がコミュニケーションを取りやすいように工夫をしています。
千葉大学の研究室と共同開発したコミュニティプランターは、利用のしやすさだけでなく、人と人とのコミュニケーションにまで踏み込んで開発した製品です。車いす利用者をはじめ、様々な姿勢での使いやすさを追求するとともに、人と植物、人と人がコミュニケーションのとりやすい高さや奥行き、厚みなど、さまざまな実験を繰り返して完成させました。
村田さん:心や体を病んだ人たち向けに園芸療法というリハビリテーションがあるそうですが、大学の研究ではそうしたことにも効果的だということです。目の不自由な方にも、植栽や土を触って楽しんでいただけるため、健常者や高齢者、障がい者も混じって、花や小さな野菜づくりを楽しんでいただけます。
現在は、高齢者施設や病院、集合住宅などに導入していただいており、利用される方々がプランターを囲み、植物を手入れしながら癒され、会話が生まれるきっかけになると好評をいただいています。
――ユニバーサルデザインの視点から製品を開発する際に、どのようなことを大切にされていますか?
中村さん:公園や施設のエクステリアは、どんな人にでも使いやすく安全であることが求められます。その時に注意が必要なのが精神障がいを抱える子どもの割合の多さです。障がいをもつ子どものうち、身体的障がいは、10%から12%程度で、残りの90%近くは、精神疾患であるという調査結果もあります。
子ども向けの遊具には、カラフルなものが多いですが、精神疾患の子どもには、色の刺激が強すぎてパニックになってしまうこともあります。やさしい色づかいの遊具も充実させ、さまざまな視点からお選びいただけるようにしています。
村田さん:遊具への配慮に目がいきがちですが、子どもと一緒にやってくる同伴者が、健常者であるとは限りません。遊具の近くにあるベンチや休憩スペースもユニバーサルデザインであることが望ましく、一つの製品単体で見るのではなく、公園の中にあるストーリーを想定することで、多くの人に快適にお使いいただけるのではないかと考えています。
今後はさらにユニバーサルエクステリアのラインナップを増やし、さらに多様な人たちが楽しめるインクルーシブな公園づくりを製品の視点から、ご提案を進めていきます。
創エネや夏の厳しい暑さを緩和する製品開発を推進
――自然災害の増加や生態系の変化など、地球温暖化の影響が顕在化しはじめていますが、その対策としてどのような取り組みをされていますか?
中村さん:地球温暖化は近年私たちの暮らしの中でも顕著になってきました。都市部ではヒートアイランド現象の影響で、約30年前に比べて30℃以上になる時間数が約2倍になっているという調査結果があります。こうしたことから、当社は低炭素化に貢献するため「再生可能エネルギーの利用」と「地球温暖化による夏の暑さ対策」という2つの視点から取り組んでいます。
再生可能エネルギーの利用という点では、主にソーラー発電仕様の照明灯や案内板、ベンチ、四阿(あずまや)といった製品をラインナップしています。明かりはオープンスペースの演出というだけでなく、防犯の観点からも重要です。また、災害時など公園が避難場所に指定されているところもありますが、停電になったとしても、ソーラー発電の灯りがあれば、夜の安心感も違います。
村田さん:ソーラー照明灯は、文字通りソーラー発電の照明ですが、特徴的なのは、オプションでUSBボックスを装備でき、最大6ポートでモバイル機器の充電を可能にしています。高品質バッテリーを採用していますので、日没から14時間点灯とした場合、計算上は7日間、無日照でも点灯できる性能を備えています。(USB電源を同時利用した場合は5日間)
そのほか、暗くなると肘掛けの下のところにあるLEDライトが点灯するソーラーベンチ、屋根の部分にソーラーパネルを設置した四阿、さらに、遊具のまわりにソーラーパネルや風力発電用の風車を設置することにより、照明利用のほか、子どもたちへの環境教育の場とした遊具の事例もあります。
中村さん:2つ目の地球温暖化による夏の暑さ対策ですが、夏の強烈な暑さは、人の健康に直接影響するため、オープンスペースにもさまざまな工夫が必要です。当社では、日差しを効率的に遮る、空気・からだを冷やす、ベンチなどの表面温度を下げるという3つの視点から製品開発を行っています。
村田さん:日差しを効率的に遮る製品としては、ブラインドパーゴラがあります。設置が簡単な上、日射率が約97%までカバーでき、体感温度が3〜7℃も低下するというデータもあります。
空気やからだを冷やすという点では、ミストを噴霧できるプランター付きベンチがあります。樹木の日陰効果と、葉から水分が蒸散するときの爽やかさ、さらにミストを噴霧すれば、体感温度が約11%低下するという実証実験結果が得られています。
この製品は、先の東京オリンピックが真夏の開催だったため、暑さ対策としてミストが噴霧できるプランター付きベンチができないかという相談が東京都からあったことが開発のきっかけになっています。コロナ禍での開催でしたので、結果的に無観客になってしまいましたが、これを契機に製品開発が進み、東京ビッグサイトや日比谷公園にも設置していただいております。
中村さん:ベンチに座るときに、体に触れる部分がかなり熱くなっていて驚いた経験をされた方も多いと思います。こうしたベンチの座面など温度上昇を緩和するため、合成木材の中でも白っぽい素材から作られる製品の採用を進めています。遮熱効果が高く、実証実験では一般の合成木材よりも5〜10℃も温度が低くなることが確認できています。
こうした製品をラインナップしていますが、温暖化への対応策として、まだまだできることがあると考えています。既存製品をブラッシュアップしつつ、新たな製品開発にも力を入れています。
森林保護や環境負荷低減の観点から、素材の調達、加工を厳しく管理
――循環型社会や森林保護の観点から、製造業として、製品のベースとなる素材や原材料などについて、どのような取り組みをされていますか?
村田さん:さきほどお話した合成木材の原料は、腐食や劣化が少なくメンテナンスが最小限に抑えられる点でも需要が高くなっています。当社では、これまで廃棄されていた使用済みの木質系の原料を約51%以上、他社工場の製造工程で発生する廃プラスチックを採用しながら、木の風合いを残した合成木材を材料として使っています。
廃棄物の削減に貢献できる製品としても幅広く展開しています。
中村さん:日本の山は人工林が多いため、放置しておくと土砂崩れなどによって森林が崩壊していくとも言われています。そのため、定期的に間伐し、森の中に日差しが入り込むようにすることが必要です。外材の安さに押されて日本の林業は危機的な状況にありますが、一度壊れた森を再生するには長い年月がかかります。日本の森を守るためにも木材の利用促進は大きな課題です。
当社は、40年以上も前から森林の循環を考え、積極的に国産ヒノキの間伐材をベンチや遊具に採用してきました。近年では、東京奥多摩産の間伐材を使用した街かどのベンチや遊具、野外卓など、地産地消を進める自治体からのリクエストに応じて、製品開発をおこなっています。
村田さん:製品の中には、自然由来のものだけでなく、さまざまな材料や塗料などを使っていますが、有害物質を使用しないことで、製品の安全性とともに環境汚染の抑制にも努めています。
日常にも災害時にも使える防災ファニチャー
――災害時に公園は避難場所になることもあるため、設置される施設にも別の役割が求められると思いますが、自治体からのニーズなどはいかがでしょうか。
中村さん:1995年に阪神淡路大震災があり、2011年には東日本大震災がありました。そのほかにも近年、毎年のように多くの自然災害が起こっていますが、こうした事態を受けて、震災公園が全国各地作られるようになりました。設置するファニチャーも、普段は通常どおり使用できて、災害時は、災害対応ツールとして使用できる製品開発を、自治体から依頼されたのが始まりです。
村田さん:具体的な製品としては、防災シェルターや防災四阿があります。普段は公園で休憩したり、会話をしたりするシェルターや四阿ですが、災害時には収納されているテントを出せば、避難場所としてお使いいただけるというものです。
避難所では調理スペースや調理設備が必要になってきますが、普段はベンチやスツール、災害時には、かまどに早変わりする製品もご用意しています。かまどベンチは寸胴鍋も設置可能で、大容量の汁物などが調理可能です。
中村さん:被災者に災害時に困ったことに関するアンケートを取ると、1位がトイレだそうです。トイレをできるだけ衛生的に、しかも男女別で使えることが災害時でも望まれます。そうしたときに活躍するのが、マンホールトイレです。
普段はスツールとして、災害時にはスツールの座板付きカバーを取り外し、周りをテントで囲めばトイレとして利用できます。排泄物は直接マンホールへと流れていくので回収する手間もなく、衛生的にお使いいただけるという製品です。
村田さん:河川敷も公園のような使い方がされている場所の一つですが、河川敷には公園のような四阿や日陰を作るシェルターが非常に少ないです。
といいますのも、河川敷は豪雨などで川が増水したとき、流されてしまう恐れのあるトイレなどの構造物は高台に移動させなければいけないというルールが河川法で定められています。高さが1mを超える物は、移動式にする必要があるため、日陰を作るシェルターなど固定式のものは設置できませんでした。
そこで、高さが基準未満であれば設置できることに着目し、短時間で簡単に折りたたみできるフォールディングシェルターを開発。簡単、安全に転倒作業ができる構造で、災害時の対応が省力化でき、河川敷管理者の負担軽減に貢献します。
日本は高齢化が進み、労働人口も減少していく中で、少しでも労力をかけずに快適環境を作り出せ、増水時にも障害になりにくい製品として、自治体のニーズに応える形で開発しました。
1990年、公園遊具の安心安全を業界として保証する(一社)日本公園施設業協会を設立
――長年、公園遊具等オープンスペースのエクステリアを製造販売されてきましたが、遊具の安心安全についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか?
中村さん:当社は設立当初から遊具やエクスリアの安心・安全を第一に考えて製品開発をおこなってきました。しかし、当時は公園遊具に関する統一した安全基準がなく、各社がそれぞれ独自の基準で製品を開発する中で、痛ましい事故が起こることもありました。
こうした状況を憂いて、創業者は自社だけで対策を考えるのではなく、業界として安心安全を保証するため1990年、(一社)日本公園施設業協会を設立したのです。
全国の遊具メーカーを集めて、アメリカ、ドイツ、イギリスを視察してまわり、それぞれの国の公園行政を徹底的に勉強したそうです。日本に戻って、JISのような基準を遊具にも作りました。その基準をクリアすれば、保険制度に加入できるようにして、事故が起きた時の補償にも対応できる仕組みを整えました。その基準認定マークがSP(セフティ・プロダクト)マークです。
このマークは、国土交通省が発表した「都市公園の遊具の安全確保に関する指針」の内容に基づいて設計・製造・販売・施工していることを証明するものです。
設立から30年以上、業界全体で協会の発展を支えてきた歴史があり、現在では全国の公園遊具メーカー120社(7月現在122社)以上が加入する協会になっています。
SDGsを用いて社内の取り組みを体系化することで従業員に芽生えた2つの変化
――これまでの取り組んでこられたことをSDGsに紐付けしながら整理することで、変わったことはありますか?
中村さん:社是を中心として、当社の事業活動を6つのテーマに分類し体系化することで、大きく2つの変化がありました。
1つ目は、お客様への製品紹介の内容が変わってきました。製品自体の特長だけでなく、導入することで社会にどのような貢献ができるのかという点が明確になり、説明がしやすくなったという意見があります。
2つ目は、従業員の意識が変わり始めたということです。工場で説明会を行った時、製造工程での廃棄物削減に関するアイデアが出てきたり、省資源化に向けた意見が飛び出すなど、従業員に環境や社会課題に関する気づきを提供することができていると感じています。
強みとする企画力、技術力を活かして、町や社会の課題解決に寄与する製品づくりを推進
――最後にこれから取り組んでいきたい事業や活動について教えてください。
中村さん:これまで構築してきた事業を柱に、気候変動や環境に配慮した製品づくりを充実させていきます。
さらに、新型コロナの影響もあり、社会が混沌とする中、精神的な癒しやゆとりが一層求められています。遊具や公園設備などが、そうした点にどのようにアプローチできるのか、まだまだ構想段階ですが、解決に寄与できる企画や製品を提供できるようにしていきたいと考えています。
また、当社の強みを活かした活動にも注力していきます。オーダーメイドに柔軟に対応できる企画力と技術力を活かして、全国でどこでも同じような遊具や公園設備ではなく、それぞれの町や地域の個性にあった製品づくりは、まちづくりにもつながります。
その土地ならではの素材を使い、その町のカラーやデザインを取り入れることで、そこで暮らす人たちに喜んでいただき、町に誇りをもってもらえるような製品を企画提案し、全国でより良いまちづくりのお手伝いを一層充実させていきたいと考えています。
<取材を終えて>
町にはいろんな公園があり、目的を持って訪れる時もあれば、ふとした時に立ち寄ることもあります。子どもたちとっては、大切な遊び場であり、若いカップルには、心がときめくメイクドラマの場であり、家族連れには楽しいひとときを、年配の方には、コミュニケーションや健康づくりを提供する場であったりします。
公園設備はモノですが、そこに集う人々にとっていかに快適で楽しい空間にできるのか、長年にわたり、常に人の視点で発想し、人に優しく、地域を大切にする製品づくりをされてきた中村製作所。その理念は、SDGsの考え方にも親和性があり、公園遊具やエクステリアにとって、SDGsを共通言語として世界の人々に寄り添えるものになって欲しいと感じた取材でした。