SDGs取り組み事例

トレジャーカンパニー vol.19

  株式会社ユーグレナ 

会 社 名:株式会社ユーグレナ
所 在 地:東京都港区
代表取締役社長:出雲 充
設  立:2005年
主な事業:ヘルスケア事業、エネルギー・環境事業、ソーシャルビジネス 等

サステナビリティが当たり前の社会を目指す「ユーグレナ」

ユーグレナをご存知でしょうか。和名を「ミドリムシ」という昆布やわかめのなかまで、0.1mmにも満たない微細藻類。この生物のポテンシャルを最大限に引き出し、環境や社会の課題解決に本気で取り組むベンチャー企業「株式会社ユーグレナ」が今回ご紹介するSDGsトレジャーカンパニーです。

ありたい姿として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をかかげ、サステナビリティが当たり前の社会を実現するために活動するユーグレナ社の事業に対するスタンスや、SDGsの捉え方など本質的な部分も含めて、広報宣伝部部長の北見さんにお話をお伺いしました。

取材にご協力いただいた広報宣伝部部長の北見さん(画像提供:ユーグレナ)

設立時から事業の根幹にあったのは「サステナビリティ」

――ユーグレナ社の事業概要について教えてください。

北見さん:ユーグレナ社のベースは、この会社を設立した、代表取締役社長の出雲が大学時代に訪れたバングラデシュで、人々の深刻な栄養問題を目の当たりにしたことにあります。

生鮮食料品が庶民まで届かず、保存できる冷蔵庫もない。常温で保存できる栄養食品の素材を探すなかで、現在、当社研究部門のトップである鈴木(当時学生)が、微細藻類ユーグレナはどうかと提案しました。藻のなかまで、栄養価が高いことはわかっていましたが、培養方法が当時はまだ確立されていないため、量産化が難しい。そんな厳しい状況でしたが、微細藻類ユーグレナの可能性にかけて2005年に起業したのが当社の始まりです。

試行錯誤のなかで、微細藻類ユーグレナの培養技術を確立させ、さまざまな分野に事業を展開してきました。17年が経過した現在では、食品やサプリメント、化粧品等の「ヘルスケア」、「バイオ燃料」、創業のきっかけとなったバングラデシュでの「ソーシャルビジネス」、バイオテクノロジーを駆使して個々人の遺伝子を解析し病気の予防につなげる「バイオインフォマティクス」、主にこの4つの領域で事業展開しています。

ユーグレナ社が目指す「自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける社会」

――ユーグレナ社のありたい姿として「Sustainability First」を掲げられていますが、どのような背景から生まれてきたのでしょうか。

北見さん:バングラデシュの栄養問題を解決したいという創業の想いから、微細藻類ユーグレナを用いた様々な商品開発・販売まで、その根底にあったのは、サステナビリティという考え方でした。ただ、当時はそうした言葉が一般的ではなかったことやアピールするには実績が十分ではなかったため、明文化するところまでは至っていませんでした。

創業から15年が経過した2020年、実績を積み上げてきて、これからのありたい姿を再考するなかで、サステナビリティを最重要課題として捉え、行動していく決意のもとに作ったのが「Sustainability First」です。

――「Sustainability First」とはどのような考え方でしょうか?

北見さん:社会問題や環境問題をひとつ解決した時、それによって特定の誰かが幸せになったとしても、他のところで問題が起こったり苦しむ人が増えてしまっては、サステナビリティとは言えません。

自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける社会をつくること、それが私たちが考える「Sustainability First」です。

「Sustainability First」を体現した、バイオ燃料の量産化

――ユーグレナ社のありたい姿を「Sustainability First」に据えることで、事業に変化はありましたか?

北見さん:創業以来の続いてきた想いを明文化したものなので、すぐに変化が現われるものではありませんが、当社が注力している分野のひとつであるバイオ燃料事業と絡めて紹介します。

当社は2020年、バイオ燃料「サステオ(『サステナブルなオイル』が由来)」の供給を開始しました。「サステオ」は微細藻類ユーグレナ由来の油と使用済みの食用油を原料にしています。バイオ燃料の原料といえば、さとうきびやとうもろこし、パーム油や大豆油などが挙げられますが、「サステオ」は農作物由来ではないため、食料との競合がなく森林破壊の問題も起こさない持続可能性にすぐれた燃料といえます。

カーボンニュートラルの実現に貢献すると期待されるバイオ燃料「サステオ」(写真提供:ユーグレナ)

また、従来のバイオディーゼル燃料は、品質の観点から軽油に5%しか混合できませんが、次世代バイオディーゼル燃料である「サステオ」は、石油由来の軽油と同じ分子構造なので、技術的には100%でも車などの走行が可能です。軽油との混合率は供給先によって異なりますが、これまでに路線バスや配送車、フェリー、タグボートなどでお使いいただきました。

現在関東エリアでは、西武バス様や川崎鶴見臨港バス様の路線バスの一部に「サステオ」を供給させていただいています。

「サステオ」で定期運行されている西武バス様の路線バス(写真提供:ユーグレナ)

昨年2021年6月29日には、バイオジェット燃料「サステオ」を使った民間航空機の初フライトにも成功しました。鹿児島空港を離陸し、約90分の飛行を経て羽田空港に着陸し、これにより、陸・海・空の移動体に「サステオ」を導入できたことで、カーボンニュートラルの実現に貢献できる体制づくりに一歩近づくことができました。

民間航空機で初の「サステオ 」使用フライトを前に鹿児島空港での記者会見の様子(写真提供:ユーグレナ)

さらに2022年6月からは、愛知県名古屋市の名港潮見給油所(中川物産株式会社)で、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」の一般販売が開始されました。「サステオ」を一般の方対象に継続して販売するのは、全国初の試みです。良質の燃料を量産化する体制を整えてきたこともあり、実現にこぎつけました。

「サステオ」の一般販売が開始された名古屋市の名港潮見給油所(写真提供:ユーグレナ)

ここまでスピード感をもってやってこられたのは、実は「Sustainability First」に基づいていたからだと考えています。

「サステオ」を一般的にお使いいただくためには、量産化が欠かせませんが、「サステオ」に使用している微細藻類ユーグレナ由来の油は、効率的に大量生産できる段階には至っていません。一方で温室効果ガスによる気候変動の影響で自然災害が頻発するなど、CO2の削減はまったなしのところまで来ています。

この状況でサステナビリティを軸に考えた時、微細藻類ユーグレナ由来の油が量産化できる技術開発を待つよりも、一刻も早くバイオ燃料を量産化し安定供給できる体制を整えるべきだという考えに至りました。そこで、バイオ燃料としてすでに技術が確立されている使用済み食用油と混合し、量産できる体制を整えました。

当社の都合だけを考えていたら、「サステオ」の量産化はまだ実現できていなかったと思います。まさに、サステナブルな社会の実現を一番に考え行動するという「Sustainability First」を体現する事例といえます。

未来の当事者として経営に参画する10代のCFO

――ユーグレナ社には、CFO(Chief Future Officer:未来最高責任者)という他の企業では見かけないポジションがあります。18歳以下の方から選出されているようですが、設置した背景を教えてください?

北見さん:環境問題を議論するうえで、2030年や2050年という期限がよく使われますが、その時代に主役として活躍しているのは、現在の経営陣ではなく、今10代の人たちです。

未来のことを考える上で、「未来の大人」である人たちの意見を聞き、ともに行動することは「Sustainability First」を軸にしたとき、必要なことだと考え、CFOの設置に至りました。

2代目CFOの川﨑さん(左から3番目)と、CFOとともに活動するFutureサミットメンバーたち(写真提供:ユーグレナ)

――CFOの役割とはどういったものですか?

北見さん:ユーグレナ社という常にチャレンジをし続けるベンチャー企業において、どんなことを社会に提言していけるか、そのために、CFOには一緒に考え、実行してもらうことも求めています。

例えば、人事とともに、新しい仲間がいかに早く職場になじみ、実力を発揮できる環境をつくるかという「オンボーディング」をテーマに、企画を練り、仕組みづくりをすすめています。

また、人権の観点から取り上げられることが多い「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」についても、CFOがユーグレナの仲間向けにワークショップを企画するなど、会社での議論に参加し、実行することを役割としています。

バングラデシュでの緑豆プロジェクトで、第5回ジャパンSDGsアワード受賞

――第5回ジャパンSDGsアワードで最高位の「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞されましたが、評価されたポイントはどういったところでしたか?

北見さん:今回の受賞は当社の事業の柱である微細藻類ユーグレナに関連したものではなく、それ以外の分野で「Sustainability First」な行動が評価されました。それが、バングラデシュでの緑豆プロジェクトです。当社の創業のきっかけにもなったバングラデシュで、緑豆プロジェクトは現地での雇用創出と食料支援を同時に実現するために、ソーシャルビジネスとして立ち上げたものです。

ビジネスの仕組みは、まずバングラデシュの小規模農家に緑豆を育てる技術指導を行います。収穫した緑豆は現地法人のグラミンユーグレナが市場価格より高値で購入することで農家の所得向上を促進。購入した約半分は日本に輸出され、残りの半分は現地で販売したり、ロヒンギャ難民キャンプでの食料支援に充てられています。

この取り組みは、日本企業としてはじめて国連世界食糧計画(WFP)と事業連携を行い進めてきたものです。バングラデシュでのこうした愚直な活動を評価していただいてジャパンSDGsアワードの受賞となりました。

第五回ジャパンSDGsアワード授賞式の様子(写真提供:ユーグレナ)

SDGsでは、すべての人がステークホルダーであること

――企業がサステナビリティを考える上で大切なことは何でしょうか?

北見さん:いろいろあると思いますが、その中でも私たちが大切にしている考え方が2つあります。

1つめですが、SDGsの理念のなかにある「誰一人取り残さない」という基本理念は、同時にすべての人がステークホルダー(ここではSDGs達成に向けて貢献できる人の総称)であるとも言えます。

大切なのは、環境問題や社会問題の解決を特定の人や組織に任せるのではなくて、自分自身が今ある問題を解決していく主体者であることを自覚することだと思います。企業に属する個人レベルにおいても、そうではないかと思います。

2つめは、SDGsには17のゴールが設定されていますが、どれか1つを解決すればいいということではなくて、そのすべてがつながっているということです。

目先の売上げは大切ですが、自社のことを最優先にして、環境や社会、特定の人々に負担をかけていいわけではありません。売上げもつくりながら、環境や社会の問題も同時に解決していくことが大切です。まったなしの状況にある地球環境において、2030年という期限も意識して、行動することが重要だと考えています。

発信を増やし、刺激しあい、讃えあう環境を作り出す

――企業がSDGsに取り組む上で心がけておきたいことは何でしょうか?

北見さん:広報担当の立場からお伝えすると、100%完結できてから発信するのではなく、不完全な状況であっても誤解を与えないことを前提にして、積極的に情報を発信することです。SDGsに設定されている2030年を考えたときに、完全に出来上がってから発表するのでは、スパンが短すぎるのではないかと思うからです。

当社の取り組みについて発信することはもちろん大切ですが、それだけなく、不完全でもいいので、社会のためによい活動をもっと発信しやすくする環境をつくることも合わせて重要だと考えています。

SDGsにおいては、みんながステークホルダーですから、ゴールに向けて行っている活動を批判する社会であってはならないと思います。恐れず、面倒くさがらず、多くの人がどんどん発信し、刺激しあって、讃え合うポジティブな環境を作っていきたい。そうしてサステナブルな取り組みを加速させていくことが、2030年にSDGsのゴールを達成できることにもつながっていくのだと思います。

先ほどご紹介したバングラデシュの取り組みは、ビジネスとして軌道にのせるために現在進行形で取り組んでいるところです。まだ途中段階ですが、評価いただいて、ジャパンSDGsアワードを受賞しました。

ビジネスが完成してから応募していたら、この段階でアワードをいただくことはありませんでした。

――積極的に情報を発信されていることは、プレスリリースの多さなどからも伺えますが、気にかけていることはありますか?

北見さん:発信を増やすことは強く意識しています。それは、情報の消化スピードが加速していると感じているからでもあります。

例えば半年に一度、しっかりと準備をしてインパクトのある情報を発表したとします。リリースしたその日には大きな反響があるかもしれませんが、翌日には別の話題に移ってしまっている可能性もあります。半年準備にかけた時間のことを考えると、効率的ではないし効果も少ない。

それよりも、もっと短いスパンで、数を発信するほうが、現在の情報の消化スピードが速いなかで、私たちの取り組みをより広めていけるのではないかと考えています。

発信を増やすコツは、手間を厭わないこと

――発信を増やすといっても、情報やコンテンツがなければ、発信はできませんが、どのようにしてネタを収集されているのですか?コツはありますか?

北見さん:手間を厭わないということでしょうか。社内のさまざまな事業部や研究のチームなどと定期的にコミュニケーションをとることを手間だと思わず行うことです。出してもらった情報については、手間をかけて編集し、より発信力のある情報として公開するようにしています。

そうすることで、情報提供してもらった仲間にも、提供してよかったと感じてもらえたら、また協力してもらいやすくなります。

得られる情報が少ない時には、広報が自分たちで考える手間も厭わないように心がけています。

つまり発信を増やすコツは、手間をかけて情報を拾い上げて、この情報が社会にとって、どんな意味があるのかをしっかりと解説できるように編集し、丁寧に発信していくこと以外にないように思います。

定款をSDGs17のゴールに即した内容に変更

――最後に、今後の抱負をお聞かせください

北見さん:2021年の臨時株主総会で、会社の憲法とも言われる定款を変更しました。それまでは、ヘルスケアやエネルギーについてなど、現在の事業に即した内容でした。

しかし、2020年に「Sustainability First」を掲げた以上、サステナビリティを実行していく体制を作らなければいけない。であれば定款もSDGsに即した17項目あるべきだと変更を決定しました。17項目を同時に実現していくという壮大なチャレンジにむけて体制を整えて、実行してまいります。

<取材を終えて>

ユーグレナ社のホームページを見ると行動指針が3つ紹介されています。

最初のキーワードは「7倍速」――最速で一歩を踏み出し、やり切るーーです。

倍速でも、3倍速でもなく、7倍速というのに、尋常ではない熱量を感じますが、北見さんの取材からもそのスピード感を感じました。しかも、時間に追われている悲壮感はなく、ありたい姿に向かって、明るく楽しく全速力で駆け抜けていくようで、その風圧に心地よさすら感じたほどです。

北見さんの言葉のなかに「SDGsにおいては、みんながステークホルダーですから、ゴールに向けて行っている活動を批判する社会であってはならないと思います。刺激しあって、讃え合うポジティブな環境を作っていきたい。」というメッセージがありました。SDGsが描く未来を端的に言い表したとても共感できるフレーズです。

SDGsの宝箱 トレジャーハンターズも、取材に応じていただいた企業様の活動を讃え、読んでくださる方に刺激や気づきを感じてもらえるように、SDGsのステークホルダーの一員として、サステナブルな社会の実現に一歩でも近づけるように、取り組んでいきます。