SDGs取り組み事例

トレジャーカンパニー vol.11

  コマニー株式会社 

会社名 :コマニー株式会社
所在地 :石川県小松市
代表取締役 社長執行役員:塚本 健太
設 立 :1961年
主な事業:パーティション(間仕切り)の開発、設計、製造、販売および施工、各種施設内の環境衛生に関する事業

一人一人が輝く社会に貢献するパーティション業界のリーディングカンパニー。

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)によって、私たちの暮らしも仕事のスタイルも大きく様変わりしました。感染拡大を防ぐために、リモートワークの普及、オンライン会議の常態化など、仕事の空間やライフスタイルのあり方を問い直す機会にもなっています。

石川県小松市に本社をかまえるコマニー株式会社(以下、コマニー)は、空間を自在に仕切り、繋ぐパーティションの国内大手メーカー。コロナ禍にあっても躍進を続ける背景には、経営理念にSDGsを実装し、ビジネスとして社会課題の解決に真摯に取り組む姿勢があります。2018年、SDGsビジネスアワードの受賞を皮切りに数々の賞を受賞しているコマニーにとって、SDGsとは何か、経営に実装するメリットはどのようなところにあるのか、サステナビリティ経営推進部 部長の北川さんにお話を聞きしました。(リモート取材)

サステナビリティ経営推進部 部長 北川さん

<リーマンショックによる赤字転落が刷新の起点に>

―――1961年の創業当初はキャビネットの製造を事業としていたコマニー。日本ではじめて東京オリンピックが開催された1964年ごろ、当時の社長が「これからはオフィスにパーティションが必要だ」と、新事業がスタート。以来、日本におけるリーディングカンパニーとしてパーティション業界を牽引してきたが、10数年前に赤字に転落する危機があったという。

北川さん:2008年、リーマンショックによる世界的な金融危機が発生し、当社は赤字に転落してしまいました。パーティション事業を開始して以来、初めてのことです。世界的な金融危機だから不可抗力だという声もありましたが、そのなかでも黒字になっている会社はありました。これを機に、もう一度私たちの原点である経営の理念に立ち返りました。

経営の理念:全従業員の物心両面の幸福(しあわせ)を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する

2016年には、より経営理念に沿った事業へ進化させるために、ビジネスを通じて誰をどのように幸福にするのかをまとめたサステナビリティ方針を発表しました。サステナビリティという言葉を使っていますが、この時点では会社としてSDGsに触れる機会はありませんでした。

当社がはじめてSDGsに触れたのは、2017年9月の周年式典でのイベントでした。当時、ニュースなどでもSDGsを目にすることは稀でしたが、このイベントをきっかけに、SDGsに関する勉強会やセミナーに参加するようになりました。そこでわかったことは「企業は世の中の幸福に貢献するために存在するべきである」という当社の信念と、SDGsの唱える「誰一人取り残さないこと」や「より大きな自由における普遍的な平和の強化を追求すること」が、一致することでした。規模感は違っていても、目指すところが同じであるなら経営に実装すべきだと、2018年4月にコマニーSDGs宣言を行いました。

実は、この宣言をしたとき、具体的な構想はまだ決まっていませんでした。当社は有言実行をモットーにしているところがあり、重要なことは環境が整うのを待つのではなく、どうすれば実現できるかをバックキャスティングで考えて取り組んでいます。SDGsについても、学びながら計画を練り、いくつものプロジェクトを並行させながら構築していっていたというのが実情です。

<誰をどのように幸福(しあわせ)にするかを示すコマニーSDGs∞(メビウス)モデル>

―――SDGsの取り組みを考えるとき、会社の事業が17のどのゴールに当てはまるかを紐付けして考えるところから始めることが多いようですが、御社は何から始められましたか。

北川さん:最初は事業の紐付けからスタートしました。ただ、17のゴールは抽象的でわかりづらいので、各ゴールを細分化した169のターゲットに紐づけしました。これをすることで、できていること、できていないこと、できていないけれど取り組むべきこと、さらには未来に実現したいことや今後行わないことなど、さまざまな課題を整理することができたのです。時間と労力を費やしましたが、検証をしっかり行うことで、社会的な視点からも事業を俯瞰できるようになったことは大きな成果だと考えています。

―――この検証をベースにして作られたのが、コマニーSDGs∞(メビウス)モデル(以下、メビウスモデル)だと思いますが、この図はどのようなことを現しているのでしょうか。

コマニーSDGs∞(メビウス)モデル(イラスト提供:コマニー)

北川さん:当社の商品であるパーティションは、オフィスや工場、病院、学校、公共施設などさまざまなシーンで使っていただいています。同じような商品であっても、導入する施設やそこで働く人が違えば、求められることは変わってきます。それぞれの空間にいる人たちを幸福にするにはどうすればいいのか。利用空間ごとに検証し見えてきた課題をSDGs17のゴールを使って図式化したものがメビウスモデルです。

メビウスモデルの右側の「プロダクト・サービス」には、それぞれの利用空間にいる人たちを幸福にするための課題を示しました。学校であれば、子供たちがよりよく学ぶためには、どのような空間を提供すればいいのか。公共施設であれば、ジェンダー平等について、人や国を超えて集う人々がよりよく生きるためには、どのような提案ができるかを考えることになります。

左側の「ガバナンス」では、当社の事業に関わる人や社会、環境について整理し、それぞれの分野の人や環境にどのように貢献していくかを示しています。「プロダクト・サービス」と「ガバナンス」、この2つの輪を循環させてさらに向上させるのは、真ん中のレバレッジポイントにある技術(SDGsのゴール9)です。技術革新によって、貢献の輪を大きくしていくことで、より多くの人に幸福を提供できるようになることを示しています。

<さまざまな手段で従業員のSDGs理解浸透を促進>

―――このように複雑なことをシンプルに伝えることは難しく骨の折れることです。御社は伝えることに真摯に向き合っておられる印象を強く感じますが、どういった意図があるのでしょうか。

北川さん:メビウスモデルは、もともと当社のSDGsの考え方を社内で周知するために作ったものです。左側のガバナンスで示されている円のなかで従業員の占める割合を大きくしています。当社の経営理念のなかに「全従業員の物心の幸福を追求」とあるように、従業員の幸福を経営の根幹に置いています。従業員の幸福と事業はリンクしている必要がありますので、SDGsという新たな考え方を経営に実装するにあたっては、従業員への理解浸透は、とても重要なことなのです。

当初社内では、SDGsといえば社会貢献の要素が強く、ビジネスとして直接的に関わるものではないという見方をする人もいました。そうした人たちに、SDGsはビジネスを通じて社会課題を解決することであると理解してもらうためにも、自社の事業を具体的に落とし込んだメビウスモデルは有効でした。この図は、はからずも外部から評価していただくことが多いのですが、まず従業員に理解してもらうこと、そのために視覚化したことは社内外への理解浸透が推進されていると感じています。

―――理解浸透のために、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか。

北川さん:当社はイベントを頻繁に行っているのですが、昨年は、SDGsやその考え方の理解促進のために「COMANY SDGs WEEK」というイベントを実施しました。これまでの活動のなかで、各ステークホルダー(お客様、お取引先様、地球環境、従業員、地域社会など)にどれくらい貢献できているのか全従業員に知ってもらう関連部門によるトークセッションや、普段の業務が多くの貢献につながっていることに気づいてもらうための発表、さらには地域の方々と「地域の未来」を話し合うオープンセミナーも行いました。トップからのメッセージを伝えるにあたっては、当社の社長とSDGsの有識者を交えてのオンライン対談を中継。外部の方の意見を織り交ぜながらトップの考え方、会社の方向性を全従業員に伝えました。

COMPANY SDGs WEEK オンライン対談の画面(画像提供:コマニー)

そのほかには、社内周知としてSDGsに関わる社内活動を記したSDGs新聞の発行や、国際女性デーなどの記念日には関連するD&I推進の取り組みを紹介するイベントを行うなど、社内周知には時間と労力をかけています。

コマニーが発行するSDGs新聞(画像提供:コマニー)

―――SDGsを経営に実装し、社内周知を徹底することで、商品開発などに変化はありましたか?

北川さん:変化は色々とあります。まずはビジネスで社会課題を解決するという考え方が浸透してきていることです。例えば、「住み続けられるまちづくり」というゴール11のなかでは、防災・減災への対応力向上が課題のひとつです。当社には震度7相当にも耐えられる高耐震間仕切「シンクロン」という商品があります。毎年のように発生する災害に対して、BCP(事業継続計画:災害時等の緊急事態においても、企業を存続させるために計画や取り組み)を推進するうえでも重要な商品です。シンクロンの耐震機構は、当社の既存のパーティションに、後付けすることも可能です。そのため導入コストを低く抑えながら耐震補強ができます。

そして、シンクロンの耐震機構に関しては、あえて特許を取らずに技術を完全公開し、業界全体での普及を促しています。自社の利益だけを追求するなら、こうした動きにはなりません。社会にとって必要であることは、自社だけではなく業界全体で広めていくという大きな視野を持つことができたのは、当社の経営理念とSDGsから導き出した未来のあるべき姿を現す一例になっています。

震度7相当の地震にも耐えるシンクロン。金沢工業大学様と協業で加振試験を700回以上実施(画像提供:コマニー)

もうひとつには、他の企業や大学、団体などとパートナーシップを組んで商品・サービスを開発するようになったことが挙げられます。パーティションという平面の考え方から、パーティションが創る空間とそこで過ごす方の安心安全を考えるなかで誕生したのが、抗ウイルス・抗菌対策を行う「ヘルス・ブライト・エボリューション」です。これは、天然ミネラル100%の抗ウイルス・抗菌の液体を室内や什器に塗布することでウイルスや菌に強い空間を作りだすサービスですが、その液体を作っているパートナー企業の協力があって実現しました。従来のようにパーティションの観点からしか考えていなければ、実現していなかったサービスです。

また、金沢工業大学様と共同で進めているプロジェクトもあり、大規模災害発生後の避難所生活のなかで、着替えや授乳など個の空間を確保することを目的とした、避難所用プライベートブースの開発をすすめています。この商品は、工具を必要とせず組み立て設置が可能。避難時用でありながら、平時はオンライン会議や作業に集中するスペースなどとして活用してもらえるというブースで、現在は大学で実証実験を進めていただいています。こうした新たな取り組みも、産学連携のパートナーシップができてこそのプロジェクトだと考えています。

金沢工業大学様共同開発した避難所用プライベートブース(画像提供:コマニー)

最後にもうひとつ変化を挙げるとすれば、「誰をどのように幸福にするか」と判断基準が明確になったことで、商品開発のスピードが早くなったことです。例えば、コロナ禍でリモートワークが増えるなか、自宅でのオンライン会議用の目隠しとして、簡易型のパーティションを開発し、販売しています。当社はこれまで家庭用の商品は作っていませんでしたが、社会課題の解決という点で必要であると、即決され商品化されました。

テレワーク用どこでもブース ”KAKOU”。家庭向け商品(画像提供:コマニー)

オフィスにおいても、個別にアクセスするオンライン会議の増加によって、オフィスに静かなスペースが足りないということが発生しています。大きな会議室よりも、小さなスペースがいくつもあるほうがオンライン会議には便利です。そこで、パーティションではなく、オフィス内に設置できる電話ボックス型の商品を開発し販売しています。オフィスでの社会的な課題に対応するという観点からスピード感をもって販売できたことも、SDGsを経営に実装した成果だと思います。

オフィス内に「個」で働く空間を設置できる「リモート・キャビン」(画像提供:コマニー)

<ブランディングや新卒採用にも好影響>

―――SDGsの取り組みに関して、SDGsビジネスアワードをはじめとして、数々の賞を受賞されていますが、何か変化はありましたか?

北川さん:賞をいただくことで、全国からの注目度があがり、取材や講演依頼をいただくことが増えました。一般的に考えると、パーティションメーカーというニッチな市場で活動する石川県という地方にある会社が、全国的な話題にのぼる可能性はそうないと思うのです。ところが、SDGsのことを調べるなかで当社に興味を持った全国の方から、さまざまな連絡をいただいています。今回のような取材もそうですし、SDGsについてお話をする機会も増えました。企業や自治体からの依頼だけではなく、学生さんや学校からの取材依頼もあります。

例えば、千葉県の高校から、「SDGsと地域貢献について話を聞かせて欲しい。」静岡県の大学生からは、「社会課題に取り組む中小企業に関する論文を書きたいのでヒアリングをさせてほしい。」また、修学旅行の一環で「SDGsを学ぶために会社を訪問したい。」といった依頼をいただいたこともあります。(コロナ禍で実現していないお話もありますが)全国からわざわざ石川県にお越しいただいて、当社のことを知っていただけるのはSDGsを経営に実装し運用しているからだと思っています。賞をいただくことで、発信力が強化されブランディングにも大いに役立っています。

このように、社外のさまざまな場面で当社を取り上げていただくことで、社内的にも従業員のSDGsに関する意識が高まり、私どもの事業に対して誇りや自信を持つことにもつながっていると感じています。

―――新卒の採用に関してはどうでしょうか?

北川さん:当社がSDGsに取り組んでいるからという理由で応募してくださる学生さんが増えました。社会課題に取り組む意識をもった人たちのアクセスが増えることは、当社にとっても喜ばしいことです。同じような価値観を持った人と仕事ができると、当社のビジョンの実現にむけて加速することにもつながります。

就職・転職サイト「マイナビ」の就職企業人気ランキングでは、北陸地方で第2位という評価をいただくなど、新卒の採用についても、いい影響があります。

<誰かが苦しむなかで成り立つ経営からの脱却>

―――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

北川さん:私たちは2030年へのムーンショット(あるべき姿)として、創業60周年を迎える2021年4月にタグラインを「Empower all Life」に刷新しました。一人一人が光り輝く社会に貢献するために、どうあるべきか。経済優先で利益や効率のみを追求してきたことを改めようと考えています。環境を犠牲にしたり、誰かが悲しんだり苦しんだりするなかで成り立つ経営ではなく、かけがえのない一人一人が自分らしく仕事をして、幸せに生きていけるか。このことを社員だけでなく商品やサービスを通じてより多くの人とシェアしていきたいというビジョンを、社長以下全従業員の決意表明として掲げました。

課題は山積していますが、「誰一人取り残すことなく、一人一人が光り輝く社会の実現」にむけて、全従業員一丸となって今後も取り組んでいきます。

※タグライン:企業のコンセプトや理念を一言で表現したもの。ロゴマークと一体で扱われることが多い

取材を終えて

取材のなかで、北川さんから何度かでてきたフレーズがあります。「誰をどのように幸福(しあわせ)にするのか」。この言葉が気になって仕方がありませんでした。空間に集う人々の課題解決を、どのように幸福にするのか、という言葉で置き換えることが、何を意味するのか。

話をお聞きする上で感じたことは、課題解決が従来の利益追求型ビジネス思考であるのに対して、どのように幸福にするのかという視点には、人としてのあるべき姿を追求する姿勢があることです。この2つには大きな隔たりがあります。現在の環境問題や人権問題の根底にあるのは、物言わぬ環境や物言えぬ弱者からの搾取です。自社の利益追求のために、誰かが不幸になることもいとわないという考え方が限界にきている今、ビジネスを通じて誰をどのように幸福にするのか、というフレーズのように、思想と言葉の転換が必要である。そんなことを教えていただいた取材でした。