SDGs取り組み事例

トレジャーカンパニー vol.4

  株式会社 大川印刷 

会社名:株式会社 大川印刷
所在地:神奈川県横浜市戸塚区
社 長:大川 哲郎
創 業:1881年
事 業:印刷業

<SDGsに関連する取り組み>
・2004年 FSC認証のCoC認証を取得(これまでの実績により事前認証申請不要)
・2016年 日本初、ゼロカーボンプリント(CO2ゼロ印刷)を実現
・2018年 第2回ジャパンSDGsアワード SDGsパートナーシップ賞 受賞
・2019年 初期投資無料の太陽光発電設置モデル事業 第一号
・2019年 再生可能エネルギー100%達成
・ノンVOCインキ(石油系溶剤0%)を96%の印刷物に使用(2019年度)
・2019年 難民の雇用を開始

本業を通じて社会課題解決を行う大川印刷

環境やSDGsに関する数々の実績をあげてきた大川印刷。2018年に第2回SDGsアワードのSDGsパートナーシップ賞を受賞すると、注目度は一層高まり、インターネットや政府関連のレポートなどでも、その名を目にすることが増えてきた。中小企業のSDGsを牽引する企業として、取り組みだけではなく、SDGsに対する本質な考え方を6代目の大川哲郎社長にお聞きした。

6代目大川社長の厳しい船出

――勝海舟が題字を書いた「開國小史」。ペリー来航を記録した書物として1899年に出版されたが、印刷したのは大川印刷だった。薬種貿易商の家に生まれた創業者の大川源次郎氏は、西洋から輸入される医薬品のラベルの美しさに惹かれて、1881年に印刷会社を創業。それから関東大震災や第二次世界大戦など、幾多の苦難を乗り越えて、現在の大川社長が6代目になる。これほど長く続いてきた老舗企業ではあるものの、現在の大川社長のスタートは波乱に満ちたものだった。

1899年に出版された歴史的書物「開國小史」。印刷を担当したのは大川印刷。(写真は大川印刷提供)

大川社長:私が大学生のときに、大川印刷4代目の父親が心臓のバイパス手術を受けたのですが、医療事故でそのまま目覚めることなく他界しました。当時はそのことをなかなか受け入れることができませんでした。一方で会社のこともあり大学を辞めた方がいいのではないかとも思ったんですが、専業主婦だった母親が5代目の社長になってくれました。大学を卒業し、3年間ほど同業他社さんに勤めた後、1993年に大川印刷に入社しましたが、バブルが崩壊した後。いろんな意味で厳しいスタートになりました。

――長期にわたって経済的な混乱が続くなか、売上は下がり続ける一方で、半分まで落ち込んだ時期もあったそうだ。仕事を取ってこなくては、従業員さんにお給料を支払わなくては、そんなことばかりを考えて落ち込む日も多かったという。
あるとき、大学で中小企業の経営を研究されている方から「経営とは続けること」、そう言われたとき、思わず涙が出そうになったという。経営を続けていくには、どうしたらいいのだろうか。突き詰めて考えていくなかで、自分のなかに入社当時からあった違和感に気づいたそうだ。

大川社長:印刷は、大量の紙を使い、大量に紙を捨てます。工場にはインキの缶が積み重なっていて、石油系の臭いもする。その状況が自分のありたい状況とはかけ離れていました。だったら、そこから変えていこうと、1990年代後半から、環境に配慮した印刷にシフト。紙はできるだけ再生紙を使い、インキは植物性のものに切り替えました。

――経営が厳しいときに、わざわざコストのかかる材料に変更することは難しい判断だったに違いない。しかし、それが大川印刷が大きく環境印刷へと舵をきる一歩になった。

印刷を通じて社会を変える、ソーシャルプリンティングカンパニーへ

――2002年ごろから大川社長が所属していた横浜の青年会議所で、社会起業家について調査研究を行っていた。そのとき出会ったユニバーサルデザインの服飾デザイナー井崎孝映さんの話しに衝撃を受けたそうだ。

大川社長:彼女は話のなかで「洋服を通じて社会を変えたい」と言われたんです。そのことが自分にはすごく衝撃でした。今では、学生さんや若い方にそういうようなことを言う人がいますが、当時そんなことを言う人はいなかったんです。

――井崎さんは、デザイナーになる前は芸能プロダクションに所属する女優だった。ある時、障がい者が参加するダンスパーティに参加したとき、障がい者の服についていろんな課題が見えたそうだ。障がい者の方でも、着やすくてお洒落を楽しめる服をつくりたい。そう思った彼女は、一念発起し、服飾デザインの専門学校でデザインを学び、起業をした。

大川社長:自分の好きなこと、得意なことで社会を変えるという井崎さんのその感性や行動に感銘を受けました。いろいろと考えるなかで、彼女の言う「洋服を通じて社会を変えたい」を自分の会社に置き換えてみると、「印刷を通じて社会を変えたい」になったんです。そのとき、これだ!と思いました。それがもとになって、2004年、本業を通じて社会課題解決を行う「ソーシャルプリンティングカンパニー®というビジョンを掲げたんです。

他社とは解釈が異なる大川印刷のCSR

――2000年代は、日本でCSRに取り組む企業が増えていった時期。CSR(corporate social responsibility)は、企業の社会的責任と訳される。事業収益を追求するだけではなく、環境活動やボランティア、寄付活動など企業として社会の持続性に貢献する取り組みとして行うものと一般には認識されていた。しかし、大川印刷の解釈は少し違ったようだ。

大川社長:弊社は「ソーシャルプリンティングカンパニー®」というスローガンを立ち上げていたので、他の企業さんとはCSRの解釈が違っていました。チャリティや寄付など慈善的な活動を社会的責任として行うのではなく、「本業を通じて社会課題解決を行う印刷会社」として活動を行ってきました。これをもう少しわかりやすく言えば、「地域と社会に必要とされる〈人〉と〈企業〉を目指す取り組み」です。地域や社会の困ったことを改善するというスタンスで考えると、いろんな課題が見えてきます。それに対して良いと思ったことはやる、良くないことは止める。行動することで変えていこうと、いろんなことに取り組んできました。

在留外国人が多い横浜ならではの多言語版「おくすり手帳」。連携する共生のまちづくりネットワークよこはまとジャパンハウジング株式会社の三者で協働製作。(写真は大川印刷のホームページから流用)

大川社長:地域と関わりをもつようになると、まわりから自分たちの取り組みが評価してもらえるようになります。褒められると、従業員さんは元気になるんです。もっと地域の課題に取り組もうと積極的になる。それぞれの従業員さんがそうした気持ちで取り組めば、企業としても地域や社会に必要とされ、その地域で継続してお仕事をさせていただくことができるのだと思っています。

――環境印刷に舵を切り、「ソーシャルプリンティングカンパニー®」として活動を続けることで、社会貢献性の高い事業をしている民間企業や団体との取引が徐々に増えていったそうだ。

大川社長:世界自然保護基金(WWF)、神奈川県ユニセフ協会、国連WFP協会などのお仕事のお手伝いをさせていただいています。民間企業ではパタゴニアさんなど、環境に配慮した事業活動をされている企業様とのお取引が多くなっていきました。

――4代目の社長である父親を医療事故で亡くし、バブルの崩壊、印刷業界の低迷など、逆境のなかからスタートした6代目大川社長。余裕がないなかで「本業を通じて社会課題解決を行う印刷会社」というスローガンを掲げ、環境印刷に大きく舵を切った。社会貢献をボランティアでも寄付でもなく、「地域や社会に必要とされる人と企業を目指す」という考え方のもとで、社長だけではなく従業員も地域に足を運び、地域や社会の困りごとに対して仕事を通じて解決する。その活動は、クリエイティブという点においては、寄付をすることよりも有益に感じる。なぜなら課題解決のためのアイデアと行動を伴っているからだ。寄付によって成り立つ活動も世界には数多くあり、とても尊い行いではあるが、企業として収益をあげつつ社会貢献に繋げることは、持続的な活動になりやすいという点でもメリットがある。

SDGsは社会課題解決のメニューブック

――2004年から本業を通じた社会課題解決を行う印刷会社として活動してきた大川印刷。1990年代後半から環境印刷に舵を切り、FSC認証のCoC認証は2004年に取得。事業活動で排出される年間のCO2全量をJ-クレジットなどを使って相殺する「CO2ゼロ印刷」を印刷業界で初めて実現。更に横浜市および横浜市地球温暖化対策推進協議会と連携し、初期投資無料の太陽光発電設置モデル事業の第一号となり、本社工場の20%の電力を自家発電で賄うに至った。更に2019年には、残り80%の消費電力をバイオマス発電の電力を使用し(同年9月、青森県横浜町の風力発電による電力に切り替え)再生可能エネルギー100%を実現させた。中小企業において、環境経営のトップランナーといえる。
これだけの実績をあげてきた大川印刷だが、2015年に国連で採択されたSDGsについて、大川社長はどのように感じたのだろうか。

2019年4月、本社工場の屋根に太陽光パネルを設置。この太陽光発電で本社工場の20%を賄い、残りの80%を新電力の「みんな電力」から川崎バイオマス発電所の電力を購入(後に青森県横浜町の風力発電による電力に切り替え)し、再生可能エネルギー100%を実現している。(写真は大川印刷提供)

大川社長:私がSDGsを明確に意識したのは、意外に遅くて2017年です。3月8日〜9日に、東京で開催されたサステナブル・ブランド国際会議に参加しました。そこで、大企業の社長さんたちからSDGsに関する取り組みを聞きましたが、非常に先進的でなおかつ魅力的だったのです。希望の匂いがして「これだ!!!」と直感しました。
SDGsについては、不謹慎ではありますが、弊社がこれまで活動してきたことが体系化されたメニューブックのように見えました。散らばっていた課題が見える化されて、整理されているので、これはすぐに取り組んだほうがいい。
4月1日から取り組む次年度の経営計画は、ほぼ出来上がっていたのですが、会社に急いで戻って、SDGsをもとに経営計画を作りなおそう、ずれ込んでもいいから、しっかりしたものを作ろうと従業員さんたちに言いました。出来上がったのが5月下旬です。そこから弊社のSDGs経営計画が始まりました。

ボトムアップ型のSDGs経営計画

――SDGs経営計画というと、会社の幹部が会議を重ね決めている印象があるが、大川印刷は違うようだ。

大川社長:これまでもそうでしたが、SDGs経営計画についても、パートさんやアルバイトさんも含む全従業員さんが出席し、数日かけて策定します。まず、自分たちが現在課題だと思っていることを書き出していきます。それをSDGsのアイコンの入った「SDGsを忘れないメモ帳」(大川印刷製)を使って、自分たちの課題がどのように結びつくかを整理して、来年のゴールを決めていきます。
これらを集約し整理したものをSDGs経営計画として従業員さん一同が共有し、活動の指針としています。ボトムアップ型は時間がかかりますが、それぞれの従業員さんが自分ごととして、SDGsに取り組むには必要なことですし、1年後の結果に違いが出てくるのは、経験上明らかです。

SDGsを忘れないメモ帳。これを使って、SDGs経営計画を行っている。(写真は大川印刷のホームページから流用)

SDGsに取り組む最大のメリットは人財育成

――ビジネスの視点からSDGsを見たとき「SDGsに取り組むと儲かるのか?」という声が聞こえてくるが、一番の効果は、従業員さんの意識が変わることだと大川社長は言う。

大川社長:SDGsに取り組むと、世界の課題解決と自分たちの仕事とのつながりが見えてくるようになります。すると、自分たちの仕事や行動に誇りと責任を持てるようになるんです。このことが最大のメリットです。従業員さんが、自分の仕事に誇りを持てるようになれば、業績は上向くはずです。企業は人の集合体ですから、従業員さんの意識が変われば、企業は変わります。

全社員でSDGs経営計画を行なっている様子(写真は大川印刷のホームページから流用)

――従業員が行動に誇りと責任を持つとは一体どういうことなのか。具体例をあげて説明していただいた。

大川社長:弊社で7年間パートさんとして勤めて、正社員登用を希望されたので、即決で社員になっていただいた女性がいます。彼女は、その2ヶ月後にSDGsのプロジェクトリーダーを務めてくれたんです。なぜそこまで彼女が積極的に取り組んでくれるのか。聞いてみると、彼女には子どもが二人いて、会社でSDGsに取り組み始めたとき、2030年、2050年が、子どもたちにとって生きづらい世の中であってはならないという強い気持ちが芽生えたそうです。それが彼女をSDGsへの取り組みに突き動かしている理由だと言っていました。現在、彼女には講演依頼がくるまでになっています。テレビ取材などに来ていただいても、最近は彼女への注目度が高くなっています。
会社もそうですが、従業員さんそれぞれにとって経験に伴う課題感が違うんです。彼女にとっては、子どもたちに生きづらい世の中にしないために、環境をどうしていったらいいかを考え、自分がその課題に対してインパクトを出していく人財になるために頑張ってくれている。それが仕事にもつながっているのです。

――経験に伴う課題感の違いという点で、別の従業員のエピソードも挙げていただいた。

大川社長:弊社では、毎年、湘南国際村で植樹活動をしています。休日にもかかわらず、その活動に注力にしてくれる社員さんが何人かいます。この活動はボランティアのように見えますが、緑に触れて、豊富な知識を持った方々の話を聴くことを続けていくと、自然環境のことが実体験として学べるんです。すると環境印刷をお客様に説明するうえで、実体験に基づいた話しができるんです。企画営業の女性管理職の社員さんは活動を行っていくうちに、多くのファンができました。もちろんその社員さんの人柄があってこそですが、1つの要因としては彼女のライフスタイルとワークスタイルが一致しているからだと思います。仕事だから環境印刷の話しをしているのではなくて、自分のライフスタイルとして環境活動に携わりたいという想いが、仕事にも植樹にも息づいている。その姿勢で話しをするから共感してくださる方が増えて、結果的に仕事にも繋がっています。

湘南国際村で植樹活動後に社長から配られたパンを持っての記念撮影。(写真は大川印刷のホームページから流用)

――SDGsと社員の関心事を結びつけていくと、仕事とプライベートの上に社会的な関心ごとが位置するようになる。仕事をすることも遊ぶことも、その関心ごとに繋がるため、ワークとライフの垣根が低くなる。まさに理想的な働き方。こうしたSDGsの取り組みが、売上にも良い影響を及ぼしているそうだ。

大川社長:売上高経常利益率があがってきています。その要因としては、相見積りで、価格のみの競争を強いられることが減ってきたことが挙げられます。大川印刷に頼みたいとご指名をいただき相見積を取られていないケースが少しずつ増えてきたということで、大変ありがたいことだと思っています。

――印刷物のクオリティもさることながら、環境印刷に徹底して取り組むことで、大川印刷が環境活動におけるブランドになりつつあるように感じる。私自身も大川印刷で自社のパンフレットを作っていただいたことがある。多用しているネット印刷に比べて値段が高いにもかかわらず印刷をお願いした背景には、環境に対する取り組みに共感したからだ。いや正直に言えば、大川印刷というブランドが欲しかったからかもしれない。刷っていただいたパンフレットによって、自社のことも説明できるし、環境印刷についても話しができる。背景に物語を持つ印刷物は雄弁だ。

新規採用にもプラスに

――近年、就職活動をするときに、給与や福利厚生、規模だけでなく、むしろそれら以上にその企業がどのような社会課題に対して取り組みを行っているかも、企業を選ぶ際の指標にするエシカル就活を行う学生が増えてきているという。

大川社長:弊社では、2008年から社会課題解決に関心をもつ学生に限って長期インターンシップに取り組んできましたが、近年、環境活動などに志の高い学生が就職先として弊社を選んでくれることが増えてきました。これは、CSRやSDGsに取り組んできた効果のひとつだと思います。

――いい服を着て、いい車に乗って、いい家に住む。それが豊かさの象徴だと思っていた時代から、若者たちの豊かさに対する想いは変わってきている。彼らの想いは、いかに社会と関わりインパクトを残せるかという点だ。NGOやNPOの活動に賛同し、実際に活動に参加する人や、ボランティアに積極的に参加する人も増えていると耳にする。「エシカル(※)感度が高い人財」を集めることができるのは、SDGsに取り組むメリットの一つとして、注目され始めている。

※エシカル:地球環境や人、社会、地域に配慮した考え方や行動。

現在のSDGsに関する課題はパートナーシップ

――これからSDGsを通して取り組んでいきたいことはどのようなことだろうか?

大川社長:SDGsのゴールの17番にあるパートナーシップこそが重要だと考えています。自分の会社さえ良ければという考え方では、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念から離れてしまいます。現実的には簡単なことではありませんが、究極的には競合他社さんとのパートナーシップを組むことも必要ではないかと思っています。

――先月、日用品メーカーの花王とライオンが共同で、洗剤やシャンプーなどの使用済み詰め替えパックを回収する実証実験を開始すると発表した。競合する大手メーカー同士がパートナーシップを組んで、プラスチックごみの回収〜再生利用を促進し、プラスチックの循環社会の実現を目指すというものだ。それぞれのメーカーが独自に取り組んだところで影響は限定的だが、大手メーカーが共同で取り組めば社会的インパクトも大きい。こうした取り組みは、ヨーロッパでは増えてきており、日本でも増えていくのではないかと言われている。
一方で、現実的には、自分の会社を存続させるだけで必死という組織も多いのではないだろうか。そのような状況では、とても他社に目を向けることなど難しいが、大川印刷がパートナーシップについて、どのような取り組みをしているのかを聞いてみた。

大川社長:他の企業とのパートナーシップを組むに当たって、まずは社内で感謝しあえる環境づくりをしようと、従業員さん同士が褒め合う「ほめほめタイム」を毎日行っています。相手に感謝することができる人は、人に感謝されるんです。生かされていること、元気に働けていることなどに感謝ができるようになれば、人に優しくできるようになり、他の人のためになることをする意欲が湧いてくる。それは自利利他の精神に通じるものであり、「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念につながっていくのだと思います。バカバカしいと思う方もいるかもしれませんが、こうした当たり前のことを徹底して行う「凡事徹底」こそが大切だと考えています。

――不満ばかり漏らして、自分のことすら満足にできない人が、同僚や会社、お客様に気遣う心の余裕は生まれてこない。しかし、今が恵まれた境遇になかったとしても、そこに感謝の心が生まれると心のベクトルが少しずつ変わっていくのだろう。SDGsをトレンドの一つとして考えてしまうと、上っ面を整えたくなるが、本質を捉えていくと企業のベースとなる社内を整え強くしていくことに繋がっていく。

社員の方それぞれの目標とゴールを手に撮影された写真がボードに。(写真は大川印刷提供)

2030年までに、スコープ3を含めたCO2ゼロ達成を目指す

――最後に、今後の目標を聞いてみた。

大川社長:ムーンショット(壮大な目標)ですが、2030年までに、スコープ3を含めたCO2のゼロ化を達成することです。

――スコープは、CO2をはじめとする温室効果ガス(GHG)排出量を算定するガイドライン。スコープ1・2・3とあり、スコープ1は、自社での燃料等の使用による「直接排出量」。スコープ2は、他社から供給された電気や蒸気などエネルギー利用にともなう「間接排出量」。スコープ3は、事業に関わるサプライチェーン全体での「間接排出量」(スコープ1・2以外)に分類される。
大川印刷は、スコープ1・2に関して、CO2ゼロ化をすでに達成している。さらに、2030年までに、印刷に必要な紙とインキなどの材料関係の取引先企業も含めてCO2ゼロ化を達成し、スコープ3のゼロ化実現を目指すというものだ。

大川社長:昨年(2019)12月から、紙、インキ、製本など弊社のパートナー企業さん、そして競合にもなり得る印刷会社さんにも声をかけて、CO2ゼロ化と再生可能エネルギー100%使用に向けたセミナーを行っています。10月には、みんな電力(電力小売サービス業)さんと協力しあって、パートナー企業さん向けと一般ユーザー向けの2回、セミナーを実施しました。

――パートナー企業だけではなく、競合他社にもセミナーへの参加を呼びかける狙いはどこにあるのだろうか。

大川社長:弊社が年間に削減するCO2は、たかだか190トンです。これがパートナー企業さんも含めると1900トンになります。さらにCO2を減らすことを考えると、競合であろうとも社会的課題解決につながることであれば、お誘いすることで、達成を目指すというのがSDGsの考え方です。
スコープ3ゼロ化達成は、パートナーシップなくしては達成できることではありません。大変難しいことではありますが、地域と社会に必要とされる人と企業であり続けるために、実現に向けて取り組んでいきます。

〈取材を終えて〉
SDGsの宝箱を始めたとき、いつか直接お会いして、お話しをお聞きしたいと強く思っていた大川印刷さん。それがこんなにも早く実現するとは思っていませんでした。お伺いしたのは横浜駅前のオフィス。1時間以上にわたってお話しを聞きながら感じたことは、こちらの話を最後まで聞いてから、ひと言ひと言を丁寧に使いご説明いただく大川社長の対話の姿勢でした。社長として経営の舵取りを行い、講演やセミナーで全国を飛び回る身でありながら、目の前の人との出会いと時間を大切にされる様子は、人を大切にしてこられたことの証のように感じました。
また、SDGsの話をされるときには、なるべく横文字のビジネス用語を使わず、平易な日本語を使われていたのは、SDGsに対する誠実さの現れかもしれません。大川社長が危惧されている「SDGsのなりすまし」が増加傾向にあること。「まずは関心を持って一歩踏み出すことが大事」としながらも、誰のため、何のため、どのような使命を持ってSDGsに取り組むのか。上っ面を整えるのではなく、内側にしっかりとした軸をつくることが大切だと、繰り返されていたことが印象的でした。

最後になりましたが、ご多忙のところ、お時間を割いて、じっくりと耳を傾けつつお話しをしていただいた大川社長に感謝いたします。

ありがとうございました。

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