SDGs取り組み事例

トレジャーカンパニー vol.2

  ミズノ株式会社 

会社名:ミズノ株式会社
所在地:大阪市住之江区
社 長:水野 明人
創 業:1906年4月1日
事 業:スポーツ品の製造及び販売

より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献するミズノ

日本のスポーツメーカーを問われて、ミズノの名前が出てこない人はいないのではないだろうか。人生のどこかのタイミングで、スポーツ用品やウエア、シューズなどでお世話になった人も多いはず。

SDGsトレジャーハンターズの第2回はミズノ株式会社(以下、ミズノ)にお伺いしました。対応してくださったのは、法務部の柴田さんとブランドマーケティング部の織田さん。ミズノには、アスリート色が強いイメージを持っていましたが、スポーツで培った強みを、さまざまな分野に展開されているしなやかさが印象的でした。

環境活動に取り組んで29年

――ミズノの環境に対する取り組みは30年ほど前に遡る。当時、エアコンやスプレー缶に使われるフロンガスの影響で、オゾン層に穴があくオゾンホールが問題になっていた。

柴田さん当社は、スポーツを振興する企業として環境問題への関心度が高く、全ての企業活動が環境に影響を与えることを自覚した上で、地球環境に貢献することを目的に、1991年9月に地球環境保全活動「Crew21プロジェクト」を発足させました。それが、当社の環境活動の始まりです。Crew21には、宇宙船地球号の乗組員(Crew)として、資源と環境の保全を実践していこうという想いが込められています。

笑顔でご対応いただいた柴田さん。

――翌年の1992年にはミズノ地球環境憲章を制定し、Crew21が本格的に始動。リサイクルコットンやリサイクル人工皮革を採用した商品を販売したほか、1997年の養老工場(現ミズノ テクニクス株式会社)を皮切りに、2002年には、国内全事業所でISO14001認証を取得。環境配慮への取り組みを推し進めてきたが、2004年、アテネオリンピックの年に、サステナビリティを推進する企業として新たな課題に直面した。

織田さん:世界のスポーツメーカー7社に対して、国際NGOのOXFAMなどによって人権に関するキャンペーンが展開されました。アジアの工場での労務管理について問われ、欧米のメディアで大きく報道されました。NGOに我々の取り組みを説明し、事なきを得たのですが、このことをきっかけに、当社ではCSR調達に本格的に取り組むことになりました。

学生のころは野球をされていた織田さん。

――低賃金の労働力が魅力となり、生産拠点をアジアに持つ企業も多い。健全な経営をする工場もある一方で、劣悪な労働環境が問題になることもある。CSR調達とは、国内外を問わず、調達先となる協力企業に対し、人権、労働、環境、コンプライアンスなどの評価基準を設定し、社会的責任を果たすように求めていくことである。商品が安心・安全であることはもちろん、国際的な基準を満たした適正な環境で作られたものであることが、製造を委託するブランドに求められるようになってきた。

柴田さん:2004年からCSR調達に取り組んで16年になりますが、主には、取引前の新規サプライヤーの事前評価と取引中のサプライヤーに対してCSR監査を行っています。現在、当社が世界全体で主要サプライヤーと位置づけている工場が184社ありますが、3年に1回、訪問監査を実施しています。基準に満たない場合や問題が発見された場合は、是正を求め、評価基準をクリアできるまでフォローアップしていきます。

――こうしたCSR調達の取り組みは日本でも知られてはきているが、海外とのギャップに危機感をもつこともあるそうだ。

織田さん:欧州を初めとして海外では、人権や環境を含めたサステナブルな取り組みに対する評価が、日本よりもはるかに厳しいです。そうした取り組みがなされていないと、海外市場ではビジネスが成り立たないといっても言い過ぎではないと思います。
当社のサプライヤーは世界中にありますが、どの工場でも適正な環境のもとで、品質の高い商品が作られるようにする必要があります。

――ミズノではCSR行動規範を工場の経営者だけでなく、働く従業員にも浸透させるために、工場のある国と地域の言語に翻訳。2020年7月時点では、英語や中国語、スペイン語のほか、マラヤ語やラオ語など、22言語に翻訳され配布されている。どのような環境で、どのような従業員が、どのような思いで働いているのか。グローバルに拡大すればするほど見えづらくなるところに、光を当てる取り組みがあってこそ、人にも社会にも環境にも良いモノづくりが行われる。創業者の水野利八氏が遺した言葉「ええもんつくんなはれや」。この精神がCSR調達にも生かされているようだ。

ベトナムの小学校で導入がすすむ運動遊びプログラム「ミズノヘキサスロン」

ミズノがベトナムの小学校で展開している事業がある。「ミズノヘキサスロン」という子ども向けの運動遊びプログラムだ。運動が苦手な子どもやスポーツの経験がない子どもたちに、楽しみながら「走る」「跳ぶ」「投げる」ことに焦点を合わせて開発された。

柴田さん:「ミズノヘキサスロン」は、2012年に遊びながら運動発達の芽を伸ばそうと、当社が日本向けに開発した運動プログラムです。25m走、25mハードル、立ち幅跳び、エアロケット投げ、エアロディスク投げ、ソフトハンマー投げの6種目があり、遊びながら、運動の基本動作を身につけていくことを目的にしています。定期的な計測から「ミズノヘキサスロン」で子どもたちの運動能力が向上することが確認されていて、日本では全国の学校やイベント事業で導入されています。

ーーその「ミズノヘキサスロン」が、ベトナムの小学校で導入されるまでの経緯は、あるきっかけがあったからだそうだ。アジア担当の社員が出張先のベトナムで、小学校の体育の授業を見学する機会があった。訪れたのは校舎に囲まれた中庭のようなタイル張りの狭い校庭。そこで見たのは、窮屈そうにラジオ体操のような体育の授業をうける子どもたちの姿だった。ベトナムは近年著しい経済成長により、優秀な人材を育てることが急務となっている。そのため算数や国語など「知育」が中心になり「健康教育」の時間が不足。 加えて、食生活の変化や運動施設、運動設備等のインフラ不足で、肥満の子どもの増加が顕著になっているという。
―狭い校庭でも効果的に運動ができる「ミズノヘキサスロン」は需要があるかもしれないー そう感じた担当社員が、ベトナムの私立学校で「ミズノヘキサスロン」を使ったトライアル授業を行ったとき、子どもたちが満面の笑みで楽しむ姿を見て、これはいけるかもしれないと導入にむけて活動が始まった。

柴田さん:2016年、文部科学省が推進する【EDU-Port ニッポン】に「ミズノヘキサスロン」が選ばれました。EDU-Port ニッポンとは、官民協働のオールジャパンで取り組む「日本型教育の海外展開事業」です。日本の教育は世界でも関心が高く、世界から注目を集めています。そのなかでも、日本型教育の海外展開モデルにふさわしいパイロット事業として、「ミズノヘキサスロン」が選ばれました。また、2017年、2018年にはジェトロ(日本貿易振興機構)の【社会課題解決型ルール形成支援プロジェクト】に採択され、ベトナムでの「ミズノヘキサスロン」導入の大きな後押しになりました。

2019年、スポーツ・フォー・トゥモロー認定事業として、ベトナムでの「ミズノヘキサスロン」普及事業に対してスポーツ庁長官から感謝状が授与された。

ーー2018年、ミズノはベトナム政府と協力覚書を締結。現在まで、教育訓練省公認のもと63都市、約200の小学校に「ミズノヘキサスロン」が導入されるまでになった。「ミズノヘキサスロン」導入後、ベトナムの子どもたちの運動量は4倍に、運動強度は1.2倍に向上したという報告もある。ただ、こうした成果は、道具があれば達成できるかといえばそうではない。

柴田さん:道具を納入するだけではなく指導員の育成がとても重要です。プレイリーダーと呼ばれる日本の指導員が現地でワークショップを開き、運用方法を伝えて核となる指導員を育て、彼らにベトナムで指導員を育ててもらえるように取り組んでいるところです。
今後、ベトナムの全公立小学校15,000校に「ミズノヘキサスロン」を導入し、約720万人すべての小学生に運動することの楽しさと体を動かすことの喜びを届けることを目標に、継続して取り組んでいきます。


ベトナムの小学校の校庭。周りを建物に囲まれ地面にはブロックが敷き詰められている。


ビニール製のエアロケット投げを楽しむ子どもたち。


楽しみながら、走る、跳ぶ、投げるという基本動作を学んでいく。

――WHOによると、ベトナムの子どもの肥満率は40%を超えているという。ベトナム教育訓練省は体育教育の質の向上が必須であると認識するなか、「ミズノヘキサスロン」運動プログラムは、スポーツの力を活用して社会課題を解決するスポーツSDGsの好例といえる。


ミズノ本社1階にあるSDGsのパネル。

シニアの健康を増進するスポーツの取り組み

――ミズノでは、国際的な展開をみせる子ども向けの運動プログラムがある一方で、シニア向けの運動プログラムも開発し、普及に取り組んでいる。

織田さん:スポーツを通じた健康寿命の延伸を目的に、シニアに対し、主に4つの運動プログラムをご用意しています。そのなかでも2019年、全国で最も多くの方にご参加いただいたのが「ラララフィット」です。60歳以上を対象にした運動プログラムで、「できる」「楽しむ」「つづく」をコンセプトに脳と体をしっかり使って年齢に負けない健康づくりを目指すものです。

――こうした運動プログラムの取り組みを広げていくには、「ミズノヘキサスロン」と同じように指導者の育成が欠かせない。

柴田さん:当社では地域の方やNPO、企業などでシニアに関わる人を対象に、身体に関する基礎知識と運動プログラムを指導・実践するための研修を行っています。シニアを指導するうえでの注意点や筋力トレーニング、ストレッチ指導ができる技術を習得していただいた方に、アクティブリーダーのライセンスを授与し、活躍の場を広げていただいています。

――他の先進国に先んじて超高齢化社会を迎える日本。健康寿命を伸ばし、生活の質を保ちながら豊かな暮らしを続けていくことは、結果的に医療費負担を軽減することにもつながっていく。本業であるスポーツを通じて社会課題の解決に取り組む事例として、学ぶべきことも多いのではないだろうか。

スポーツで培った技術やノウハウをワークウエアに

ーー佐川急便のスタッフが着ているシャツといえば、青白赤のボーダー。佐川急便の代名詞ともいえるこのユニフォームをミズノは2007年から製造している。佐川急便が環境負荷低減のため「グリーン購入」を進めるなかで、CSR調達に取り組むミズノに、再生ペットボトル素材を使ったエコユニフォームの製作依頼があったそうだ。

柴田さん:佐川急便さんのエコユニフォームは、2018年までの11年間では約213万着を作らせていただきました。半袖シャツで500mlのペットボトルを6本、長袖で8本分使うため、トータルで約1,000万本の使用済みペットボトルを再利用したことになります。

ーー近年、大きな問題になっている海洋プラスチックゴミ。その多くは陸上で使われたものが捨てられ海に流れついたもの。再生ペットボトル素材を使ったエコユニフォームの採用は、プラスチックゴミの削減にもつながる。そうした環境に配慮したエコ素材を使いつつも、抜群の動きやすさや、快適性を保つための素材の採用など、身体の動きや状態を知り尽くしたスポーツメーカーならではのノウハウが生かされている。動きやすく、汗をかいてもすぐに乾く。匂いも気にならず丈夫で汚れにくい。しかも、デザイン性にもすぐれていれば、着る人にとってモチベーションの向上にもつながる。

織田さん:当社は、ワークウエアを労働環境の一部だと考えています。いかに快適・安全に、ベストパフォーマンスを発揮していただけるか。街なかで活動される職種にとって、ワークウエアは企業の顔でもあります。気持ちよく、スタイリッシュに着ていただくことでモチベーションや生産性の向上に貢献できればと考えています。


佐川急便の顔ともいえるボーダーのワークウエアはミズノ製。

ーー今では数多くの企業に採用されているミズノのワークウエア。近年の気温の上昇にも対応するため、冷感素材の採用や独自パターン設計で空気の流れをコントロールするファン付きワークウエアなども開発。スポーツで培ったテクノロジーや機能を駆使しつつ、着ることを楽しむというデザイン性をプラスして、従来のワークウエアの概念を越えていく。自社の強みを親和性のある別の業種に置き換えてみる。佐川急便のエコユニフォームづくりに10年以上採用されているミズノのワークウエアは自社の強みを別の分野で活かした好例といえる。

伊藤園と共同開発。茶殻を混ぜたフィールドチップ

ーーSDGsの重要な課題のひとつにパートナーシップがある。17の目標実現のためには、お互いの長所を生かして目標を達成することも重要だ。
ミズノと伊藤園は共同で茶殻を利用したフィールドチップを開発。フィールドチップとは、天然芝に比べて硬い人工芝の根の部分に撒きクッション性を持たせるもの。選手の足腰を守るためには欠かせないものであり、通常は黒いゴムチップが使われる。

柴田さん:茶殻を配合した樹脂でできたField Chip「Greentea」(フィールドチップ「グリーンティー」)は、ゴムチップ特有の匂いがありません。しかも、黒いゴムチップと比較して、表面温度の上昇を抑制する効果があります。

サッカー場1面に使った場合、【お~いお茶】525mlのペットボトルで換算すると、約43万本分の茶殻をリサイクル活用しています。茶殻にはお茶の樹木が吸収した二酸化炭素が蓄えられているため、サッカー場1面あたり、大気中にある約4.3t-CO2の二酸化炭素を削減できる計算となります。

フィールドチップ「グリーンティー」は、現在、ミズノ直営施設の学童保育施設「あそりーとAFTER SCHOOL」(東京都)のPlay Groundや常盤橋(東京)開発エリアの一部、橿原運動公園(奈良県)に採用されていて、環境に配慮するとともに、人工芝の快適な利用に貢献しています。


茶殻を混ぜたフィールドチップ。

SDGsで何が変わってきたのか。

ーー1991年から環境問題に取り組みはじめ、2004年からCSRに本格的に取り組んできたミズノ。長年にわたり、企業としての社会的責任を果たしてきた企業として、2015年国連で採択されたSDGsで何か変わったのだろうか。

織田さん:CSRは企業が果たす社会的責任ですから、これまでしっかりと取り組んできました。しかし、CSRそれ自体が直接的な利益を生むわけではありません。そのため、内容によっては積極的になれない空気もありました。しかし、SDGsは、ビジネスを通して、社会の課題を解決しようというものです。これまで取り組んできたCSRから発展させ、ビジネスを絡めていくことで、より積極的に取り組んでいけるのではないかと感じています。

柴田さん:CSRについては、評価基準の厳しい海外市場でビジネスを行うために取り組んでいる義務的な側面もあります。しかし、SDGsは2030年をひとつのゴールとして持続可能な社会づくりをみんなで目指すものなので、取り組む姿勢がより前向きになったと思います。

また、特に欧米では若い人の環境やサステナビリティに対する関心がすごく高まっていると感じています。日本でも小中学校の義務教育でSDGsの授業が導入されました。その影響もあってか、当社の取り組みに興味を持っていただいた中学校から、修学旅行で当社への見学依頼がきています。また、大学のゼミからも当社の取り組みについて問合せがあったりします。何かを強いられて取り組むのではなく、アイデアを出しあって社会的な課題を解決していくSDGsは、若い人たちも自分ごととして参画できる期待感があるのではないかと感じています。

ーーSDGsによって若い人たちの声が通るようになってきたことは、さまざまなメディアを通じても感じることだ。就職の際、環境や人権にどのように取り組んでいるのかを基準に企業を選ぶ学生も少なからずいるという。初任給や福利厚生、実績だけで会社を選ぶのではなく、企業としてどのように社会に貢献しているか、またその姿勢を判断材料として就職先を選ぶ。企業にとってSDGsに取り組むことは、ビジネスとしての広がりだけでなく、志のある優秀な人材を採用できるひとつの材料にもなっていくようだ。


ミズノのブランドスローガン「REACH BEYOND」と社員の想いをつづっていくSDGsツリー。


SDGsツリーの中央にある水野社長のメッセージ。


一枚の葉では書ききれなくて2枚重ねて書かれている。思いが伝わってくる。



スポーツを通じて社会に貢献するという経営理念が息づくメッセージが多い。

〈取材を終えて〉
小学生のころ野球少年だった自分にとってミズノのグローブは憧れでした。ある年の誕生日に念願のミズノのグローブを親に買ってもらいましたが、汚れるのが嫌でボールをキャッチするのをためらっていたことを思い出します。スポーツメーカーのイメージは華やかで、有名アスリートを起用したインパクトのある宣伝広告が目に付きます。しかし、今回取材をさせていただいて、その裏では、30年近く前から環境問題に取り組み、サプライチェーンの労働環境を守るためにCSR調達に取り組んで来られた地道な活動があることがわかりました。

営業基盤のないベトナムで、子どもたちの運動教育のために、いちから「ミズノヘキサスロン」の普及に取り組まれてきたスポーツに対する志の強さ。一方で、日本を代表するスポーツメーカーでありながら、スポーツという枠にとらわれず、強みを生かしてスポーツ以外の分野に進出するしなやかさ。

ミズノがかかげるブランドスローガン「REACH BEYOND」のスピリットを感じる機会になりました。

実は、日本を代表するスポーツ企業のため、ひとつひとつの事業規模が大きく、SDGsに取り組むヒントがいただけるかどうか不安もありました。しかし、お話をきくうちに、規模は真似できなくても、発想を学ぶことはできるし、発想のスタートは大きくは変わらないこともわかりました。今回の事例を自社に置き換えて考えてみると、ヒントが生まれやすいのかもしれません。ぜひ参考にしてください。

最後になりますが、ご多忙のなか、こちらの初歩的な質問に丁寧にお答えいただいた柴田さん、落ち着いたトーンのなかに、笑いを混ぜなら和やかにお話しいただいた織田さんに感謝いたします。

ありがとうございました。

ミズノのブランドスローガン REACH BEYOND
https://www.mizuno.jp/reachbeyond