トレジャーハンター、記念すべき第一回の取材先は、使用済みコピー用紙を名刺や封筒にアップサイクルする「PELP!」で脚光を浴びる山陽製紙株式会社。取材に応じていただいたのは、三代目の原田社長と笑顔の絶えない奥様の原田専務。こちらの質問に包み隠さず、1つ1つ丁寧にお答えいただくお二人の姿勢に、誠実さとともに経営理念に対する強い信念を感じることができました。
創業から90余年、環境経営にシフトするきっかけから、to Cビジネスへの参入など、SDGs導入の参考になる話題が盛り沢山。
PELP!劇場、始まります。
今のままでは、50年先にうちの会社はない
――PELP!やcrep、SUMIDECOなどのブランドで、数々の賞を受賞されている山陽製紙。新しい会社かと思いきや、創業は昭和3年、今年で92年になる。大阪工場設立当初(昭和26年)から古紙再生メーカーとして、セメント袋の縫口に使われるクレープ紙(しわのついた紙)や電線資材などの包装用クレープ紙を製造。会社設立から50周年を迎えられた2007年、原田社長は、ホテルに社員さんや家族、OBの人たちを集めて盛大なパーティーを開催。次は創業100年!という威勢のいい声も飛び交う一方で、社長の不安はますます大きくなったそうだ。
原田社長:我々が携わる製袋産業は斜陽産業です。これから50年先を考えたとき、この延長線にうちの会社はないと思ったんです。自分たちがいなくなっても会社は存続していくものにしないといけない。どうしたらいいのか相当悩みました。そもそも当社は何のために存在するのか、使命は何なのか、50年後どんな会社になっていたいのか。幹部の社員と徹底的に議論しました。創業の精神を肌で感じるために、彼らと創業の地、広島にも赴きました。議論し尽くしたうえで、最終的に専務(奥様)と山にこもり、経営理念を刷新したんです。
<経営理念>
私たちは紙創りを通してお客様と共に喜びを共有し、環境に配慮した循環型社会に貢献します。
製紙会社は製造工程で大量の水、電気、ガスを使うため、環境への負荷が大きいんです。きっと地域の人もよい印象を持っておられなかったと思います。だからこそ、これからは環境に良い製紙会社を目指してビジネスを行なっていくと決意しました。その志をこれからの軸として定めたのが新たな経営理念です。
1年に1度、4月に行う「理念祭」
――時間をかけて幹部の社員と作り上げた経営理念。循環型社会に貢献するといった素晴らしい内容でも、それが全社員に浸透しなければ、刷新した意味がない。山陽製紙では、経営理念に対してユニークな取り組みがある。
原田社長:当社は4月に「理念祭」を開催しています。これは一年に一度、経営理念のなかにある循環型社会に貢献するということを、楽しみながら考えようという趣旨で始まったものです。ここ泉南地域や岸和田は、祭り好きが多いですから、祭りとなると、盛り上がるんですね。今年で12回目になりますが、毎年内容は変わります。昔の田舎暮らしを体験したり、環境に関する映画を観賞することもあれば、有識者の先生をお招きしての講演や、SDGsのカードを使ったゲームをしたこともありました。
――お話を聞いているミーティングルームの壁を見ると、「理念祭」というポスターが貼ってある。絵ごころのある社員さんが、勤務が終わってから残業して作られたそうだ。
原田社長:第一回目の「理念祭」は、経営理念を一緒に考えた幹部たちが中心でしたが、2回目からは、社員が主導で企画をしてくれるようになりました。社内に理念委員会がありまして、開催日から当日のスケジュール、内容、告知まで、すべて委員会主導で行ってくれています。
――経営理念を軸に行動しようとするこのような取り組みにより、社員の方の意識も少しずつ変わっていった。工場で使う水は、近くの男里川(おのさとがわ)の伏流水。地下から毎日2,000tを汲み上げる。使い終われば、排水処理をして川に戻す。工場は川の恩恵を受けて稼働している。
原田社長:経営理念を刷新して13年たちますが、私が一番うれしかったことは、男里川の清掃活動です。昔は、ゴミだらけで汚かったんですが、あるときから若い社員たちが率先して掃除を始めたんです。すると全社で実施しようということになり、月に1回定期清掃が始まりました。それが地域に広がり、今ではリタイアされた地域の人たちが毎週ボランティアで清掃をしてくれているんです。地域の人達と一緒になって地元に貢献できることをとてもうれしく思っています。
高度排水処理設備の導入
――お話をきいていると、環境はもとより、地域の人々への配慮もうかがえる。男里川の清掃が恒例になるなかで、原田社長は、2018年に大きな決断をされた。
原田社長:これまで使ってきた排水処理設備でも、排水基準は十分クリアしているんです。ですが、排水に色がわずかに残っている。それがずっと気になっていて、2018年に高度排水処理設備を導入しました。この設備で二次処理をすることで、色も取り除かれ、さらに基準値も大幅に下回ったきれいな水として川に戻すことができるようになりました。
再エネ電力の導入
――製紙会社が水と並んで大量に使うのが電気。現在、日本の全電力量のうち70%以上が火力発電だが、大量のCO2が排出されるため大きな環境課題になっている。山陽製紙は2017年6月、工場で使用する大量の電気を再生可能エネルギーを主な電力源とする電力会社「みんな電力」からFIT電気(※1)を購入することに。コスト的にはかなり高くなるが、社員たちに相談すると、節電に一層取り組めばなんとかなると導入を決められたそうだ。
さらに、2019年12月には、2050年までに再生可能エネルギーの100%利用を促進する取り組み「再エネ100宣言 RE Action」に参加。その第一弾として、2020年4月、オフィスの電気をFIT電気に非化石証書(※2)を組み合わせた再エネ100%の電気に切り替えた。
※1:FIT電気とは、再生可能エネルギー電源である太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスを用いて発電され、固定価格買取制度(FIT)によって電気事業者に買い取られた電気のこと。再生可能エネルギーは自然由来のため発電が安定しない。しかし、再エネ発電を普及させるため、他の電力よりも高く買い取ることになっている。その負担額は、電気料金に上乗せされ「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」として、国民が負担している。このため、再生可能エネルギー電気でありながら、CO2排出の計算方法が、非FITの再生可能エネルギー電気とは異なり、火力発電なども含めた全国平均の電気のCO2排出量の電気として扱われる。
※2:非化石証書とは、再生可能エネルギー電源でありながら、FITによりCO2排出量を火力発電などと同じように扱われることを避けるため、国民が負担している再エネ賦課金を非化石証書として買い取ることで、再生可能エネルギー電気として認めるもの。
FIT電気→再生可能エネルギー電源でありながら、CO2排出量は火力発電なども含めた全国平均の電気として扱われる
FIT電気+非化石証書→再生可能エネルギー電気として扱われる
原田社長:自社に太陽光発電設備もありますが、現在は固定価格買取制度(FIT)期間中ですので売電しています。適用期間が終了すれば、自家消費に切り替えて、再エネ率をあげていくように取り組みます。
――「みんな電力」からは主に長野県の水芭蕉水力発電所の電気を購入されていることもあり、原田社長は発電所の竣工式に招かれた。長野県副知事は訓示のなかで、「ここから大阪の山陽製紙さんにも電気を送ります」と述べられたことがきっかけで、式典後にはプレスから取材を受け、新聞にも掲載されたそうだ。排水設備も電気も環境に配慮するとコストが高くなる。しかし、こうした取り組みは環境課題に敏感な企業や団体に広まっていくようで、山陽製紙の認知度向上にも一役かっている。
ビジネスにならないエコはありえない
――2007年の経営理念の刷新により、循環型社会に貢献する方向に舵をきり、水や電気といった工場での環境課題に取り組まれてきた。その一方で、原田専務が中心となって、新たな市場開拓も進んでいた。
原田専務:リーマンショック後の2009年、初の赤字になりました。なんのために経営理念を刷新したんだろう、と考えていたとき、マーケットを変えてみようと思いたったんです。それで環境先進国のスウェーデンに研修に行きました。そこでお会いした大学教授から「ビジネスにならないエコはありえない」とお話しいただきました。さらに、そのビジネスとエコをどうつなげるのか、そのひとつの手法が「サービサイジング」です。
――サービサイジングとは、モノを提供するのではなく、物が持つ機能をサービス化して提供するという考え方。身近な例がカーシェアリング。車を所有するのでなく、移動する機能をサービスとして提供することで、利用者は必要なときに必要なだけ利用ができ、所有にかかるコストや環境負荷も減らすことができる。ビジネスとエコがうまくリンクした好例。帰国後、原田専務は「紙のサービサイジング」について思案されたそうだ。
原田専務:紙を提供するのでなく、紙の機能をサービス化して販売するとどうなるのか。そうした発想から生まれたのが「カミデコ」です。会社で不要になったコピー用紙を集めて、当社にお送りいただくと、工場で溶解処理されます。それを100%再生紙の封筒やノートに形を変えてお客様にお返しすることができるサービスです。
――スタート時のカミデコは、無料でコピー用紙を回収し、再生した封筒やノートなどを販売することで利益を得る仕組み。しかし、コピー用紙の回収サービスのみを利用し、再生したステーショナリーを買わない企業があり、収益基盤が安定しなかった。また、取引先や知り合いの経営者などを中心に販路開拓に取り組んだが、認知度も思うようにあがらない。ビジネスにならないエコはありえないはずなのに、どこに問題があるのか悩む日々。そこで、ブランディングデザイナーの力を借りることになった。
めぐる紙、PELP!誕生
原田専務:カミデコの取り組みをイチから見直して「PELP!」にリブランディングしました。あわせて、環境への貢献度合いを見える化するために「カミトレ」も始めました。カミトレは紙のトレーサビリティです。お客様が現在までにどれくらいの紙を持ち込まれ、環境にどのくらい貢献できているかをネットで見ていただけるサービスです。
――PELP!がカミデコと違うのは、利用するにはまず会員登録が必要なこと。さらに無料だったコピー用紙の回収サービスをPELP! BAGを販売することで有料化。袋がいっぱいになれば、着払いで山陽製紙に送ると、開封されることなく、PELP! BAGのまま溶解処理される。再び名刺や封筒、ノートなどにアップサイクルされ、名入れして購入することができる。コピー用紙の回収という「入口」と再生ステーショナリーの販売という「出口」で収益を上げることで、サービスを持続化できるようになってきたという。
――2013年からはじまったコピー用紙の回収実績は、カミトレのサイトを見ると、現在で8.1t。CO2削減量は55.1t、樹木に換算すると、680本以上の削減になる。会員になり、PELP! BAGを購入すると、自社の回収取り組みがわかるようになっている。早速会員になり、PELP! BAGを購入して自社サイトを見てみると、購入日が記されていた。そこをクリックすると、驚いたことに、届いたPELP! BAGが、いつアップサイクルされたものか、どの企業から持ち込まれた紙が使われたかまでわかるのだ。会員のなかで紙が循環している、繋がっていることが確認できる仕組み。不用のコピー用紙をもっと集めて送りたいと意識できることがカミトレのもうひとつの魅力でもある。
オフィスで捨てていたコピー用紙が、自分たちの名刺になって戻ってくる。それがどれくらい環境に貢献できるかもわかる。PELP!は「リサイクルの見える化」の好例だ。
さらに、2020年5月には、森を守る国際的な認証制度「FSC認証」の「CoC認証」も取得された。サプライチェーンも含めて厳格な管理が必要なため、取得するには難易度が高いとも言われているが、カミトレで回収から溶解までトレースできていることが評価され認証。PELP!の名刺や封筒には、PELP!マークの他、FSC認証マークをつけることもでき、サステナブルな社会に貢献している意思表示にもなる。
to C市場で脚光を浴び始めた「crep」
――原田専務を中心として、2011年からto C市場の開拓にも乗り出すことに。当初は、再生紙を使ったステーショナリーを開発し、2014年、2015年にはギフトショーに出展。コンセプトは面白いと関心をもつ来場者もいたが、流通の仕組みもわからず飛び込んだ新しい市場では苦戦が続いた。しかし、展示していた産業包装用のクレープ紙をエンドユーザー向けの商材に転用できないか、という提案があり、これが新商品開発のきっかけになる。原田専務は、社内に持ち帰り、社員からアイデアを募集すると200件以上の提案があがってきた。採用されたのは中国人社員のアイデア。クレープ紙の表面にデザインを施して、かわいいピクニックシートにしてはどうかというものだった。クレープ紙の裏面にはコーティングがされているため、濡れた地面に敷けて、軽くて折り畳みもでき、持ち運びも簡単。そのアイデアを形にして「crep」というブランドで展示会に出展することになった。
原田専務:2016年からインテリア・ライフスタイル展に出展しはじめたのですが、翌年の2017年に「crep」がベスト・バイヤーズ・チョイス賞を受賞しました。
――ベスト・バイヤーズ・チョイス賞は、インテリア・ライフスタイル展に出展する企業のなかで1社にだけ贈られるアワード。この年は、イタリア家具メーカーのなかでも圧倒的な人気を誇る「カッシーナ」の輸入販売を手がける「カッシーナイクスシー」のバイヤーが選考にあたった。電線の包装資材でもあるクレープ紙は、丈夫で撥水性、耐水性も高く伸縮性にも優れる。その性質を利用し、デザインを施して、ピクニックラグに仕上げたことが高く評価された。この受賞をきっかけに、認知度が上ってきたそうだ。
原田専務:「crep」はこれまでに、マスキングテープで有名なカモ井加工紙さんのブランド「mt」をはじめとして、さまざまな企業さんとコラボさせていただきました。また、無印良品さんのセレクトショップ「Found MUJI」ではクレープ紙を使用した「クレープ紙・レジャーシート」と「クレープ紙・マチ付き大袋」をオリジナル商品として販売していただいています。
――山陽製紙には、「PELP!」、「crep」のほか「SUMIDECO」というブランドがある。名前から連想されるように炭を紙に混ぜ込んだもの。面白いのが炭の元が木ではなく梅干しの種。梅の加工業者さんが廃棄に困っていたものを、梅炭(うめずみ)パウダーにして紙に混ぜられないかと提案があった。古紙に梅炭を混ぜて紙にすれば、2つのリサイクルが可能になる。循環型社会に貢献するという経営理念にも合致するため、苦戦しながらも数年がかりで商品化に成功。梅炭は、備長炭よりも消臭効果や調湿効果に優れているため、足の消臭グッズなどにも使われている。
循環型社会を実現するという経営理念がそのまま形になった3つのブランド。時間をかけて育ててこられた、これらのブランドが、会社の新たな顔になりつつある。
crep(クレプ)
工業用クレープ紙の特徴を活かした「自然を楽しむ」アップサイクルブランド
SUMIDECO(スミデコ)
炭化させた種などを抄き込み、炭が持つ優れた機能を生かした再生紙
――最後に、お二人に今後の目標を聞いてみた。
原田社長:現在「PELP!」、「crep」、「SUMIDECO」の3ブランドで総売上の8%程度です。今年は新型コロナウイルスの影響で、展示会などのイベントが軒並み中止になり苦戦していますが、3年後には30%まで上げていきたいと考えています。
原田専務:「PELP!」の会員さんは、人にも環境にもやさしい、いい会社さんばかりなんです。こうした会社さんを繋げられるプラットフォームを作りたいと思っています。いい会社さん同士がコラボできれば、きっと素晴らしいお仕事ができるんじゃないかと。そうした良い循環の輪をPELP!を通じて創っていきたいです。
<取材を終えて>
今回は、山陽製紙さんのショールームで、原田社長、千秋専務、そして入社2年目の向藪さんに、お話をお聞きすることができました。お話を聞くなかで、お二人から何度も出てきた言葉が経営理念です。循環型社会に貢献するという切なる思いを13年間ブレることなく、行動の指針とされてきたことに、環境経営にシフトされた強い意思を感じることができました。一方で、初めてお会いするにもかかわらず、お話される様子は、とてもやさしく穏やかで丁寧。PELP!会員さんは、みなさんやさしいと原田専務はおっしゃっていましたが、お二人のやさしさと誠実さが、いい会社を惹きつけて、よい循環が生まれているのだと思います。
「ふたたび、みたび、めぐる紙」
PELP!のコンセプトコピーの最後の言葉が、現実になってきている。そんなことを感じた取材でした。
■Treasure POINT
ペルプはSDGs最初の一歩として取り組むのにぴったり!
PELP! BAGを購入し、使用済みコピー用紙を集め、一杯になれば送るだけ。カミトレは、会員専用サイトにログインすると、回収されたコピー用紙の重量や持ち込み履歴、CO2削減量換算や森林伐採削減量などの換算指標が閲覧できます。これらの取り組みや情報は、SDGsの取り組みとして公表できるほか、CSR活動や社内の環境への啓蒙活動にも利用が可能。アップサイクルされた紙で名刺や封筒を作れば、PELP!マークのほか、森を守る国際的な認証制度「FSC認証マーク」をつけることもでき、サステナブルな社会への貢献のPRにもなります。
PELP! BAGを購入し、PELP!の名刺を採用する。SDGsの最初の一歩にはぴったりの取り組みだと思います。
PELP! BAG
5袋(1袋の容量:最大4,000枚程度)+宅配便着払伝票5枚
¥12,500(税別)