はじめに
本日は、私の話を聞かれて、ぜひ考えを一変していただきたいと思います。チームマイナス6%では、到底、現状の危機を突破することはできません。日本は2050年までに、CO2排出量を80%〜90%削減しなければ、直面している問題は解決できないのです。
今まで、「一秒の世界」、「世界を変えるお金の使い方」、「気候変動+2℃」という本を一般啓蒙向けとして出版してきましたが、4冊目の本は生物の多様性の保全をテーマにしました。気候変動による犠牲は人類よりも他の生物が先であることが予想されており、様々な生物種に依存している我々の生活を守るためにも、生物の多様性を守ることが緊急の課題なのです。
人類に大量の犠牲者が出ることを阻止するためには、気温上昇を2℃以下に抑えなければならないと言われていますが、他の生物を守るためには1.5℃を突破させてはいけないと考えられています。しかし、現在の日本の科学者らによる予測では1.5℃を突破するのは2016年頃、2℃突破は、2028年頃とされています。つまりこの20年で、地球上の生きとし生けるものが大変な災難にあうというところまで来ているのです。この状態を“地球温暖化の地獄の1丁目に入った”、と言っています。しかし、まだ間に合います。残された時間はあと10年です。この10年を無為に過ごすと、地獄の2丁目、3丁目と進み、果ては無限地獄へと陥ってしまうでしょう。
皆さんはお笑いになるでしょうが、ある状態を突破すると温暖化は無限地獄、つまり温暖化の暴走が始まると言われています。アメリカではこれをrunaway
global warmingと呼び、人間が何をしようとブレーキがかからないという状況を意味します。そうなる前に引き返さなければなりません。
地球温暖化問題に関する科学的根拠
今年の2月2日、IPCC第4次レポート(Intergovernmental Panel on Climate
Change:気候変動に関する政府間パネル)の政策決定者向けのサマリーが発表され、そこで大変厳しい予測が出されました。4タイプの社会経済の発展シナリオについて、もっともベストのシナリオで予測を行った結果、21世紀末の平均気温が20世紀末の平均気温に対して、1.1℃から6.4℃上がる、というものです。
この結果に対し、一般に上限の6.4℃に注目しがちですが、注目すべきは下限です。最低でも1.1℃は上がるのです。産業革命以降、20世紀末の気温上昇は0.74℃、合計で1.84℃、つまりほぼ2℃の上昇となります。
今回予測した4種類の社会経済のどのタイプでも、生物の大量絶滅を守るための1.5℃は突破することになり、必ず100万種類以上の生物は絶滅することになります。持続可能型の社会で最も成功しても、1.84℃、約2℃上がるわけですから、IPCCの研究が正しいとするならば、我々を待ち受ける困難は大変なものだと言うことを意味しています。
もうひとつ、注意しなければならないのは、我々1人1人は無知蒙昧であることです。現在、爆発的に科学技術の発展が進み、時々刻々と発表される学術論文を全部読める人はいません。つまり全貌は誰にもわからないという状態であり、1人が書いたレポートは必ず間違っています。ほとんどの本が、その誤りを犯しているのです。
そこで、我々が第一次的に信頼できるのは、多くの国が膨大なお金を出して、多くの科学者が参加して議論した結果となります。その科学者全員が間違っている可能性もあるため、それをバイブルと思ってはいけませんが、最良の科学的知見、すなわち圧倒的多数の科学者が支持していることについては、耳を傾けるべきでしょう。それが、先ほど紹介した130カ国の2500人の科学者が3年がかりでまとめた、IPCCの報告書です。これをまず議論の礎石にすることが必要かと考えます。
また、私と早稲田大学教授の北川正恭氏が座長となり、(株)東京海上日動火災の協力を得て、国内外の170名の科学者と協力して行った、産学連携プロジェクト「サステナビリティの科学的基礎に関する調査2006」でも、人間活動が原因の地球温暖化が起こっているという結論を出しています。詳細はホームページでご覧ください。http://www.sos2006.jp/
2001年IPCC第3次レポートによって、過去1000年にわたり調査した結果、11世紀から19世紀までは単調に下降していた北半球の平均温度が、20世紀に至って気温上昇に転じているという報告が発表されました。それに対して北半球の平均温度の分析が誤っていたのではないかという、ホッケースティック論争と言われる激しい議論が起こりました。
アメリカ合衆国ナショナルアカデミーの独立委員会(National Research Council)が調査した結果、過去1100年間にわたって、現在の地球の表面温度は過去最高であること、ただしヨーロッパでは10世紀頃に一部温暖な時代があり、17世紀頃小氷期とよばれる寒冷な時代があったという結論が発表されています。またIPCC第4次レポートでは、さらにさかのぼり過去1300年にわたって検討しても、現在の地球表面温度は最高温度であると結論付けています。
大気中に蓄積するCO2
大気の総重量は、1uあたりの大気の重量×地球表面積=5282兆トンです。一方、CO2体積分率1ppmの総重量は、80億トン。大気中に1ppm増えるということは、80億トンのCO2がたまるということを意味します。
ご存知の通りCO2の濃度は増加の一途をたどり、今や380ppmに達する勢いです(産業革命当時280ppm)。過去10年を平均すると、年間約2ppm、つまり毎年約160億トンのCO2が大気に蓄積されています。産業革命以降、増加したCO2は8000億トンです。
そして現在、私たちが排出しているCO2は毎年275億トン、そのうち海や森林に吸収されず大気中に蓄積されるCO2は165億トン、放出量の約60%です。つまり全員が60%削減できれば、空気中のCO2濃度は安定化するというわけです。
一方、年間2ppmの増加を続けると、あと10年で400ppmに達します。そして400ppmで気温上昇2℃突破の危険性が50%を超えると計算されています。
気温上昇2℃を抑えることが、我々を守るターゲットであるならば、400ppmまでのこの10年はいよいよ危険水域に入ったと言えるでしょう。そこで、昨年より多くの研究者や政治家が、人類に残された時間はあと10年しかないと声高に言い始めているのです。
しかも、未だ誰も報道していませんが、温暖化の深刻さの最たるものは、この深刻な状況が、今後1000年以上続くということです。
CO2を除去する自然のプロセスは非常に時間がかかるため、CO2は大気中に長く留まります。排出したCO2は100年後も30%残り、完全に消えるには、5000年かかるとも言われています。今、排出量を0としたとしても、CO2の濃度は過去42万年間の最大値を上回り、この危機的状況は今後1000年以上続くのです。我々だけではなく、子々孫々にわたって温暖化問題と向き合わなければいけません。
今年、暖冬が騒がれていますが、これは地球温暖化のほんの序の口、我々が待ち受ける温暖化はこんなものではありません。グローバルな温暖化の影響は、地域的な気候の激変を伴って現れます。異常気象が止むことはありません。
我々が気候を安定化するためには、毎年蓄積する160億トンのCO2を減らさなければなりません。ところが、議定書の目標では、先進国全体で年間約10億トンを減らす計画です。これを達成しても焼け石に水で、地獄の2丁目に入ろうとする世界の形勢を止めることが出来ないということは、元から明らかなのです。先進国は途上国より責任が重く、90%近く削減することで、ようやく元の世界に戻ることができるのです。
また温室効果ガスは、CO2ばかりではありません。CO2は、放射強制力に対して60%程度寄与しています。ついで、CH4(メタン)が20%、N2O(亜酸化窒素)、CFC12、CFC11(フロン)、その他と続きますが、これら全てを減らさなければなりません。
ご存知の通り、空気は酸素と窒素が大部分を占めています。これらはともに温室効果ガスではありません。仮に空気中に温室効果ガスがないとすれば、地球上の平均気温は−18℃となり、水は凍ったままで蒸発は有り得ません。しかし、非常に微妙な量の温室効果ガスがあるおかげで、強力な温室効果ガスである水蒸気が発生し、また雲ができ、地球の平均気温は約15℃に保たれているのです。
酸素と窒素が温室効果ガスでないのは、2つの原子で構成される分子だからです。CO2、オゾン、水などの三原子で構成される分子は、その特徴ある分子振動で、特定の波長において赤外領域に吸収が生じ、温室効果ガスとなります。
温室効果のほとんどは水分子が寄与し、CO2が寄与していないという人がいますが、それは大きな誤りです。二酸化炭素があってはじめて温室効果が働き、水が蒸発し、その結果水蒸気がさらに温室効果を高めるのです。CO2は独立変数、水分子は従属変数、ですからCO2濃度が重要なのです。過去においては地球軌道の変化があって温暖化し、それでCO2濃度が上昇し、更に温暖化を促進させていました。CO2は温暖化や寒冷化の増幅因子の役割を果たしていましたが、今回の温暖化は、まず大気中への急激なCO2の注入によって起こっていることが特徴的です。
また、寒冷化が近づいているという説もありますが、これも誤りです。CO2を多く空気中に蓄積させている今、氷河期が来るのは2万年〜5万年後、あるいは氷河期が来ないという説も発表されています。
気温上昇と温暖化影響
過去50年間で地球の表面に蓄積された熱エネルギーは、約16×1022カロリー、その80%は海に吸収されています。人類全体が年間使う熱エネルギー総量は4×1020カロリー、つまりその約400倍のエネルギーが地球に吸収されているのです。ただちに私達が温室効果ガスの放出をやめても、蓄積した熱エネルギーで温暖化は進行するでしょう。その時間差は、10年とも20年とも言われており、早めに対応しなければ目標温度突破に間に合いません。
そこで、ポイントオブノーリターンという言葉が使われるようになりました。2016年に1.5℃突破なら、2006年が1.5℃突破のポイントオブノーリターンであり、2028年に2℃突破ならば、2018年がポイントオブノーリターンかもしれないと言われています。すなわち生物絶滅のポイントオブノーリターンはもう過ぎたかもしれないのです。ここが、問題の非常に深刻なところです。
ある研究で、1700種類の北半球の動植物が過去50年間に30km北へ移動したことがわかっています。この地球上で、発見されているだけでも175万種の生物達は、今、南極あるいは北極めがけて集団移住、いわば強制的なマラソンをさせられているわけです。渡り鳥や蝶などは移動が簡単ですが、植物は移動が難しいため絶滅していきます。
この原因を作り出したのは人類です。我々の文明を支える動植物を、我々が原因で滅ぼしつつあるのが現状です。
気温上昇と温暖化影響については非常に詳しく研究されています。詳細は、4月にIPCCから発表されることになっていますが、まず大事なのは1.5℃突破、2℃突破、3℃突破です。
1.5℃突破で、グリーンランドの氷床の全面融解が始まると考えられています。完全に融解するまでは100年〜200年という人もあれば1000年という人もおり、まだわからないこともたくさんありますが、確実に言えるのは、この1000年で海面水位が4m〜6m上昇するということです。氷床形成には時間がかかるが、温暖化で崩壊するときは一気にと言う科学者もいます。
さらに2℃突破で、水不足、マラリア、飢餓、洪水などで何億人もが犠牲になると言われています。
3℃突破で、ツンドラが解けて半分になり、メタンガスの他に、氷河期にたまった過去の有機物から大量のCO2が放出されます。その頃、海は飽和状態になり温暖化ガスはどこにも吸収されずに大気へ直行し、森林や土壌はCO2放出に向かいます。アマゾンも枯れ始めると考えられています。そこで、温暖化の暴走が始まります。これぞまさに温暖化が更なる温暖化を招くという状態です。現在の予測では、3℃突破は2050年頃とされています。また北極の氷は2040年までに夏期はすべて氷解すると言われています。
さらに放置を続けると、21世紀末には海洋が温暖化して、低温状態で安定化していた海中のメタンハイドレードが不安定化し、海中から大量のメタンガスが放出されると言われています。しかし、すでにこの初期症状が始まっているという説が、昨年北海道大学の低温科学研究所から発表されており、21世紀末といわれていたメタンハイドレードの不安定化はかなり早まるとも言われ始めています。
これらの暴走する地球温暖化という状況はなんとしてでも避けなければいけません。ですから、この10年が人間、他の生物にとっても非常に重要な期間なのです。
ヨーロッパでは、たびたび政治的決議を行い、気候リスクを回避するための気候ターゲット2℃を設定しています。しかしこのまま放置すれば、2℃突破は必至です。ヨーロッパの研究者では、早ければあと20年で2℃を突破するという人もいる中で、アメリカ、中国は京都議定書を離脱し、中国、インドは削減義務を負わず、高度経済成長を続けています。
生物種の大量絶滅時代
今急激な人口増加の一方で、他の生物種の絶滅が加速化しています。Living Planet Report 2004(生きている地球レポート)は、1970年から2000年にかけて、1000種の生物について生物固体数が40%低下していると発表しています。
現在は、地球上における第6回の大量絶滅時代であり、年間1000種類の生物が絶滅しています。今回はまさに人類が作り出した大絶滅時代です。
先に述べたように、1.5℃突破で生物種の20〜40%、約100万種が絶滅するという予測がなされていますが、イギリスが発表したレポートによると、生物多様性の保全のためにはその他に、10年間の気温上昇を0.05℃以下に抑える必要があります。しかしIPCCの第4次レポートによると、この10年間にその4倍のスピードで地球の平均温度が上昇しています。つまりほとんどの生物種がこの変化について行けないでしょう。
温暖化を加速する要因
気候シミュレーターの結果には不確実さがありますが、その予測があたってしまうと考えられる、温暖化を加速する要因があります。その温暖化が温暖化をさらに加速する仕組みをポジティブフィードバックと言います。
2006年の観測結果では、ポジティブフィードバックばかりが続々と発見されていることからも、温暖化の加速が恐れられています。
私たちはポイントオブノーリターンを越えてしまったか?
全世界の異常気象は今後も止むことは無いでしょう。食料不足、環境難民の増加、色々な災害が絶えず起こり、その中でチームマイナス60%を行う覚悟をいつ決めるのかという話です。決められないならば無限地獄に行くしかありません。京都議定書が焼け石に水であることは計算済みです。
昨年、ガイア仮説で知られるラブロックが、人類がすでにポイントオブノーリターンを通り過ぎたと言って物議をかもしました。しかしまだそんな絶望する必要はないという科学者も多いのです。このように、極端な説で絶望してしまうことも問題ですし、未だにCO2は温暖化の原因ではないという人がいるのも問題です。今必要なのは現実を見据え、科学者が結論づけている人為的温暖化が起きていることを認め、冷静になって出来うる対策を行うことです。今なら、まだ低炭素循環型共生社会が実現できるのです。
私が編集した「気候変動+2℃」で紹介している、日本の科学者によるシミュレーションでは、2016年に1.5℃突破、2028年に2℃突破、2052年に3℃を突破することが予測されています。
一方、昨年9月から全世界の情勢が一変しました。温暖化加速の証拠が次々とみつかっているためです。代表的なものとして、北極海氷の劇的な融解(72万平方キロメートル消失:トルコの面積に相当)、シベリア凍土融解による巨大湖(フランスとドイツを合わせたほどの面積)の出現とメタンガス放出量の増加、イギリスの土壌はCO2を吸収していないという調査結果などがあります。
それを受け、昨年12月13日には、ワシントン大学のアメリカ国立大気研究センターにより、北極海氷は2024年より急激に減少し、2040年までにほぼ完全消滅するという予測が報告されました。
そんな中、昨年10月にイギリス政府が公表したスターン・レビュー「気候変動の経済学」(Stern Review: The
Economics of Climate Change)では、このまま対策を講じない場合、大変な経済損失が起こり、その費用は事前に対策を講じた場合に比べ、20倍以上となるという予測が発表されています。そしてスターン・レビューの後、二人のイギリスの科学者から、“危険な気候変動を回避するための時間はもう5年しか残されていない”という論文が発表されました。2012年までにCO2を減少に転じさせることは極めて困難です。また2007年は、エルニーニョと地球温暖化で観測史上最も暑い夏になると言われています。
極め付けはIPCC第4次報告書で、90%以上の信念を持って、今放出している温室効果ガスが、過去50年間の地球温暖化の主要な原因であるという結論を導き出しました。これは非常に重い結論です。
私たちは何をすればよいか
地球温暖化防止は戦いです。世界大戦が始まったと考えなければいけません。現在の最良の技術で、地球温暖化問題を解決できると多くの科学者は考えています。しかし問題は強固な政治的意志の確立です。
2月のIPCC第4次報告書発表のあと、世界情勢は劇的に変わっています。アメリカのブッシュ大統領は、10年間でガソリン消費量を20%カットし、バイオ燃料へ転換していくことを発表しました。また世界最大の石油会社エクソンモービル社の前社長は、CO2による温暖化を否定し続けてきましたが、新社長は先日、CO2が地球温暖化の原因だと明確に認めました。さらにアメリカのGE(電気会社)、GM(ゼネラルモーターズ)ほか大手石油会社などが、排出取引権市場の設置をブッシュ大統領に迫っています。
EUは単独行動主義に出て、2020年までにCO2の20%減を発表しており、技術開発において、環境イノベーションに取り組もうとしています。
では日本はどうでしょうか。わが国の一番の問題は、長期環境戦略がないということです。我々は技術も人材もあります、しかし全体がばらばらです。今必要なのは、まず参議院と衆議院で、2050年までに日本のCO2排出量80%〜90%削減を国会で決議することです。国家最高戦略として、持てる資源を全て低炭素循環共生型社会構築のためにつぎこむのです。そこで初めて環境ソリューションの国、日本の国際競争力が上がり、信頼性も上がるでしょう。
日本は、ゴア氏のように、衝撃的な映画で多くの人を目覚めさせることは出来ませんが、解決策を世界に提示することは出来ます。ここで安部総理大臣に、ぜひ国家最高戦略を環境国家立国政策にしていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
山本良一氏 著作物:「一秒の世界」「世界を変えるお金の使い方」「気候変動+2℃」 |
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